朝、マクドナルドにて

 昨夜は終電に間に合った。家に着いたのは一時半ころだった。冷蔵庫には焼きそばが一袋残っていた。残り半分の新たまねぎを切った。一緒に耐熱容器に入れて、レンジで温めて食べた。
 今朝、目覚めとともに俺は腹が減っていた。想定内だ。今日のチャンスに、マクドナルドのクーポンを使うことを計画していたのだ、昨夜。すなわち、朝マックの新メニュー、サラダマリネベーグルを食おうと。
 シャワーの後、DHCの亜鉛を飲んだ。空腹のときにこれを飲むと気持ち悪くなる。空腹が無くなってしまった。出がけに胃薬とソラナックスも飲んだ。電車が関内駅に着く頃に、空腹が戻ってきた。俺はクーポンを使うときが来たと思った。
 俺の前に四人の外国人女性がマクドナルド関内に入っていくのが見えた。皆、背の高い白人女性だった。水商売の帰りなのだろう。彼女たちがカウンターに群がる。俺は横の列のカップルの後ろに並んだ。横のカウンターは大変なことになっていた。店員のおばさんが「十時半からです」とちょっと大きな声で言った。今は朝マックのとき。ハンバーガーは食べられない。なかなか話が通じない。すると、テーブルの方から一人の中年客が出てきた。サングラスに派手なセーター、金のネックレス。彼が外国人のオネーチャンに何か話しかけた。待ち合わせをしていたようだ。こういう組み合わせは、伊勢佐木町ユニクロやその上のダイソーなんかでも見られる。ついでに助け船を出せばよさそうなのに、おっさんはまた席の方へ帰ってしまった。そうだな、日本語の分かる俺だってマクドナルドの注文にはたじろぐ。クーポンが無ければ買いに来る気がしない。
 俺はクーポンを出して注文を終える。ちょっと横にのいて出てくるのを待つ。俺の後ろに並んでいた若者は、マックフィッシュディッパーとコーラのM(氷抜き)を注文した。ヘヴィな朝飯だ。外人のオネーチャンたちはまだ困ってる。店員も困ってる。俺はお持ち帰りの袋を受け取った。最後まで隣の列に進展は見られなかった。十時半まで粘って、ハンバーガーを食べることになったのかもしれない。
 会社に来てサラダマリネベーグルセットを食べる。クーポンで三百円とはいえ、食パン二〜三斤分の値段だ。まず、ハッシュポテトから平らげた。これは冷めると不味い。しかし、朝のセットでこいつが必ず出てくるのは不可解だ。これは油っぽい。少し抵抗がある。思うに、単品でよかったのだ。コーヒーだって会社でインスタントをいれればいい。ただ、インスタントコーヒーより、マクドナルドのやつの方が幾分マシだ。幾分。
 肝心のベーグル。こぼれ落ちるレタスとの戦い。真ん中に穴が開いている。その部分は落下の危険性が増す。俺は慎重に、速やかに食べた。味の感想。ベーグルの中に野菜とハムとチーズが入っていて、ドレッシングの味がした。次から俺はソーセージエッグマフィンを選ぶだろう。マクドナルドを犬の餌と見なす人も、「マフィンは食えるけどね」という、あのマフィンを。マフィンはアメリカ移民がパンの代用食にしたものに過ぎない。たしか藤原新也がそう書いていた。けれど、ベーグルよりはマシだろし、俺が昨夜食べたものよりずっとマシだろう。俺は最近、俺に人並みの味覚を有する必要があるのか疑問に思っている。毒を、致命的な毒だけを峻別できればそれでいいじゃないか。そうは思わないか?