春は嫌だと言ったのに

 夜、職場を出ても風が生ぬるいのが嫌だ。どこかの梅の花の甘い香りが漂ってくるのが嫌だ。女の服装が薄くなってくるのが嫌だ。春には何かの胎動を感じるから嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ。願はくは我が寂寞の枢がとこしえの冬の中にあらんことを。