ツバキの花の咲くころは

ワビスケ

 今朝、通勤途中のことです。細い階段を登っていると、傍らにツバキの花が咲いているのに気がつきました。やや小ぶりな花はピンク色で、花びらが幾重にもなる千重咲き。この可憐なツバキはきっと‘乙女椿’(学名Camellia japonica 'Otometsubaki')でしょう。思わず携帯電話を取り出し、写真に撮そうかと思いました。しかし、よく見てみると花びらに多少の傷みが見られ、撮影はせずに携帯をしまいました。株を見ると、まだ花開いていないつぼみが幾つもありました。
 ツバキというと冬のイメージがあります。しかし、冬に咲くのは主にカンツバキ(Camellia hiemalis)の仲間。秋咲きを除けば、ツバキの見ごろは今なのかも知れません。しかし、この時期となるとウメの花が春の雰囲気を先取りして、早咲きのサクラもチラホラ姿を見せ始めます。ツバキはただでさえ品種ごと、株ごと、さらには、株の中ですら開花がバラバラなのですから、「ツバキの咲くころ」に確固とした意識を持たないのも仕方ないのかもしれません。ツバキはウメやサクラのように、どこか名所に見に行くといったものではなく、庭の片隅に植えて、その花の咲くさま、落ちるさまを愛でるのが似合っているのでしょう。
 ツバキ属の学名Camelliaは、カタカナで書けば聞きおぼえのある「カメリア」。マニラで植物蒐集に励んだチェコスロバキアの宣教師カメルスにちなんだものですが、彼ら西洋人の博物趣味というか、そういったものには感心するばかりです。むろん、西洋人に発見されるずっと前、上代のころ、記紀のころより日本人が好んできた花木でもあります。花ばかりではなく、油を採ったり実用的な面も多い木なのです。
 ところで、植物の改良趣味については洋の東西を問わぬものらしく、人間が等しく持つ性質なのかもしれません。ツバキにも多くの品種・系統があります。私は何かと派手なもの、華美なものを好むのですが、ことツバキに関しては多少異にするところがあります。今朝見かけた‘オトメツバキ’のような千重のものどころか、八重咲きのものもあまり好まず、花弁に斑入りなどももってのほか。‘卜半’のように蕊と花弁のコントラストもいりません。私が好むのは‘紅侘助’のようないたってシンプルなもの。小輪で筒咲き一重、色も紅色がいい。なぜツバキだけ地味なのが好きなのか、こればかりは私自身にもよくわかりません。