『無能の人』つげ義春

ASIN:4537031646
 今日の午前中、あるCDを探していたら『無能の人』が出てきた。まだ鎌倉にいたころ、大船の鎌倉書店で買ったものだ。ケース入りなのに安かった覚えがある。なぜだかわからないが、フラフラと読み直してしまった。私が持っているつげ義春の本はこれ一冊である。
 私にとってつげ義春というと、桜玉吉が敬愛する漫画家、という位置づけになる。事実、この『無能の人』を読みつつ、玉吉がどのあたりから影響を受けているのか、あるいはオマージュを捧げている(平たく言えば、パクっているか)のかを考えてしまう。『御緩漫玉日記』(ASIN:4757721439)を読んだ後の今となっては、何やら玉吉もどんどん有限ならぬ幽玄の方へ拍車が掛かってるようにも思えてくる。そして、単に作風をなぞっていくのではなく、ともにそれぞれ私小説風(もちろん作者と作品の距離はある)であるのが面白い。とはいっても、私はつげ義春についてよく知らないのだった。
 もちろん、この『無能の人』は、私にとっても玉吉フィルタを通してのみ読まざるを得ないような作品ではない。一応はシリーズになりながらも、それぞれの話に個性があり、実に印象的だ。なんだろうこの、一貫した乾いたユーモアというか、島尾敏雄のようなというか、なんというか、私に表現力がない。うまく言えない。
 あえて一番印象に残った話を挙げるならば、「鳥師」だ。というか、一言も喋らず、顔も出ないのに、一番印象に残った人物が鳥師だった。これもまた、あちら側からちょっと来ているだけの人物の象徴なのだろうか。彼は飛び去ってしまう。
 ところで、これは本当に関係ない話だけれど、私は両手の親指、中指、薬指が「鳥師の指」だ。いつかマムシでも捕まえてやろうかと思う。