映画『半落ち』

※注意:ネタバレを含みます。また、書き出しは「はっきり言って面白くなかった」です。

 はっきり言って面白くなかった。原作も話題になったし、出ている面子もいい感じなので期待したのだけれど、なんだか肩すかしを食らわされた感じだ。そうだ、原作は読んでいない。「原作はよかったんだろうな」と思わせる点もあったけれど、読んでいないのだから、あくまで映画『半落ち』の感想だ。
 私はある作品を悪く言うのがあまり好きではない。どちらかといえば、「いいところさがし」をしてしまうタイプだ。だから先に、この映画の自分なりのいいところを書いておこう。
 まず、原田美枝子。明るいお母さんが息子を失い、その後、自らのアルツハイマーで再び、いや何度も息子の喪失を味わう。やがて自分自身すらわからなくなってくる、その事に恐怖を覚え、ついには夫に死を乞う。なんかこれはもう、原田美枝子ばっかり見たかったと思えるくらいだ。
 次に、おっさんの数。加齢臭が漂ってきそうなほど、いろいろなおっさんが出てきた。別におっさんが好きなわけではないけれど、こうもアクのあるタイプが並ぶと、ちょっと壮観だ。それだけ。いや、けど、吉岡秀隆はちょっと浮いていたな。まだまだ加齢臭が足りない。
 で、どこがよくなかったか。やはり詰め込みすぎ、という点があったと思う。いろいろな人物のいろいろなエピソードを盛り込むものだから、それぞれの人物の感情の移り変わりなどもすぐ片づけられ、「なんでいきなり調書破くの?」「ここでいきなり泣くの?」といった、置き去り感を味わうはめになった。しかも、それぞれのエピソードもなんかおざなりな形で紹介されたままで、全体として収束する感じもない。
 そして、主人公の裁判。主人公が空白の二日について黙秘するのは、自分が提供者となったレシピエントへの配慮だ。そのための黙秘。それはいいのだけれど、「それだけ?」という感が否めない。だいたい、主人公が庇おうが庇うまいが、刑は嘱託殺人の五年程度で、裁判ものとしても焦点があやふや。
 それに、主人公が「提供者にはなれない五十一歳になったら自殺する」という点。思うに、ここが主人公の行動のキモであるはずなのに、そこら辺が明確に描かれていない。いや、何も主人公の独白や、心の声のシーンが必要だと言うわけではないけれど、ここにもピントが合っていないようにも思えた。「そういうつもりなんだと周り登場人物に説明させているな」と思わせるようでは、半落ちじゃなく手落ちだ。しかも、その説明も不十分だったように思える。
 そうだ、何か原作について論争が起こっていたっけ。……と、調べてみるに、この点、受刑者の臓器移植について批判が起こったようだ。しかし、この映画だけを見たならば、林真理子もわざわざ取り上げなかったんじゃねえかと思う。ん?その批判があったから敢えてぼかしたのか?……まあいいや、事情は事情、作品は作品。
 というわけで、森山直太朗のエンディング・テーマが流れてきて驚いたのだ。「これだけなのか?」と。「魂を失った命とは何か」「元凄腕刑事の黙秘」「警察と検察の関係」「組織と個人」などなど、面白くなりそうな要素満載で、これだけなのか、と。自分が無駄に期待していただけなのかもしれないけれど、新しい映画だからってじっくり見るもんでもないな、と。これだったら、ニャホニャホタマクロー(CMの間にエンディングだけ見た)についてじっくり見ておいた方がよかったよ。