君たちが何を求めているのか知らないけれど

 こんな小さなボロ会社にも、週に一通くらいは就職活動をする大学生からのメールが来る。なぜ御社に惹かれたのか。得意とする分野は何か。IllustratorPhotoshopも使えます。採用予定はおありでしょうか……。
 採用予定? 採用予定なんてあるわけないじゃないですか。この私を見てご覧なさい。昨日だって帰ったのは十二時過ぎだ。それなのに私は無職なんですよ。無給労働者によって維持されている、共産主義国みたいな会社なんですよ、と。そりゃまあ、サイトなんかを見れば、取り扱う内容がその分野の学生さんには魅力的に見えるかもしれないけれどね。一般的にも聞こえがいい分野だし。けど、そういう風に見えるように作るのは当然だから。……って、彼らの送ってくるメールの自己宣伝も似たり寄ったりか。ただあれだ、文章には気をつけた方がいいと思う。とりあえずメールから判断できるのは、文章だから。無職に言われたくないだろうけど。
 それにしてもまあ、就職活動ってのは大変なものなのだろう。私は就職活動も就職もしたことがないので、想像するしかないけれど。だって、来年の春のために今から頑張ってるわけでしょう。それで、採用予定について一言も触れていない会社のサイトに、いきなりメールを送ってくる。その心意気は大したものだとは思う。とてもじゃないが自分には無理だと思う。
 けどあれだ、ちょっと個人情報の取り扱いには注意した方がいいんじゃないだろか。若い娘さんが、電話番号やら住所まで晒すのは危なくないか。うちはまともな会社なので(多分)、私が見て未知の就職活動に思いを巡らすくらいだけれど、危ない会社だったら危なく使われちゃうかもしれない。うーん、けど、そんな安いリスクくらいは平気で踏み越えなければ就活は成就しないのかもしれない。「なんでこんな馬鹿が社会人として就職できたのだろう」というような人がたまに居るけれど、彼らとて難関を乗り越えて来た勇者なのだ。それを前にして、身分無しの自分が何を言えるのか。あらゆる求職者に福音を。そして私には幾ばくかの慈悲があらんことを。