『丸亀日記』藤原新也

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 藤原新也の文章は凄い。俺が思う文章の凄い人リストがあったとしたら、上位十位に絶対に入ってくる。カリカリに仕上げられてピーキーというか、上がり三ハロン三十二秒台というか、無駄なくスパッと斬る凄味がある。かといって飛ばしまくるかといえばそうでもなく、冷静沈着な距離感と描写。まあ、いくら俺が説明してもできるものじゃないのだ。
 で、この本はその藤原氏の新聞連載をまとめたもの。時代は八十年代後半のもので、「丸亀」を通して社会や世相を見るという形で、それほどキリキリに仕上げられた風でもない。グッとアクセルが踏み込まれ掛けた部分もあったが、フッと戻る。そんな感じ。むしろ、そんな部分よりもコンビニに迷い込んだアゲハチョウの話、仕事場に飛び込んできたコウモリの話、そんなあたりが良い。しかしなんといっても「まぶたの猫」。これ、千葉のローカル線で、電車に乗る野良猫がいたなんて話なんだけど、猫好きにはたまらない。
 この本、本当は寝る前にパラパラめくってみるだけの予定だったけど、一気に読んでしまった。現代文明批判に少し紋切り型っぽさを感じたり、類推の飛躍っぷりも感じなくはないけれど、やっぱ藤原新也は面白い。まだ読んでない著作も多く、これからも古本をチェックしていこうと思う。