『タレントあそび』宇能鴻一郎

goldhead2005-08-06

ASIN:4575500763

あたし、芸能界にあこがれてるんです。
まだ高校の一年生なんだけれど、学校の勉強なんか、ちっとも興味がもてないんです。
それより、歌や踊りの方が、自分でも好きだし、向いてると思う。
歌は、山口百恵桜田淳子森昌子のマネなんか、本物そっくりに歌えるし、歌っているとしぜんに涙が浮かんできて、自分でもうっとりして、
(あたしって、どうしてこんなに歌がうまいのかしら)
と思ったり、するんです。

 あたし、昔、宇能鴻一郎センセの小説を日刊ゲンダイで読んでいて、頭をげんこつで殴られたみたいなショックを受けたことがあるんです。だって、書き出しが、
「あたし、アメリカ人のチアガール」
だったんです。あたし、じゅん、ってきちゃった。
 そんな宇能センセの本、古本屋で見つけたから思わず買わなくちゃって思ったんです。Amazonにこのタイトルがあるのには驚いたけれど、あたしが買ったのは、さらに古い昭和55年に出たやつ。それで、値段を見ようと思って裏表紙をめくったら、この本、どこかの図書館に居たみたいなんです。あたし、宇能センセの本が図書館にあるなんて信じられなかった。それでも、宇能センセは芥川賞の偉い先生だから、当たり前なのかなって思うんです。
 それで、あたし、宇能センセの本、初めて、一冊通して読んだんです。『官能小説用語表現辞典』(id:goldhead:20050608#p1)に出てくるような、難しい言葉なんか、ないんです。だけど、シチュエーションがエッチで、さすが宇能センセなのかな、って思ったんです。だけど、その文体にメロメロになってしまって、あんまりエッチな気分にはならなかった。男の人って変にデリケートなのかしら。
 ストーリーのこと、触れておいたほうがいいかしら。もちろん、とっても単純なんです。芸能界を目指す「あたし」が、東京に行くんです。処女の「あたし」は、芸能界で売れるためには「ガマン」しなくちゃって、インチキ業界人とか、プロデューサーとか、黒人ラッパー(ポブ)とかにされそうになっちゃう。でも、結局、キャバレーのバンマスにあっさりやられちゃうんです(そのキャバレー、関内にあるって設定なんです)。こんな展開に、ちょっと驚いたわ。だけど、どことなくユーモラスで、思わず笑っちゃうような話なんです。最後はハッピーエンドだし、ちょっと面白い感じ。やっぱり、宇能センセ、すごいんです。