『夜の曼陀羅』勝目梓

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 たぶん、ご想像いただけると思うのですが、夫の眼の前で他の男性に抱かれた妻と、それを終始眺めていた夫というものは、その後どうしてもぎくしゃくいたします。

 松岡正剛空海の夢』を出でて、勝目梓『夜の曼陀羅』に至りました私でございます。勝目梓といいましても、私は週刊誌で見かけた名前かと思うくらいで、よく存じ上げておりません。検索しますと、「勝目梓という小説家が気品に満ちた甘美な恋愛小説を仮に書いたとしても、それを読みたがる人はいないだろう。」と、ご本人の言葉が見つかりました(http://shop.kodansha.jp/bc/bunko/pocket/200110/008.html)。あたし、こういう職人気質には、じゅん、ってきちゃうんです。それで、宇能鴻一郎センセのばあい、「あたし」って一人称小説なんだけど、『夜の曼陀羅』はどう言ったらいいのか、ちょっと、わかんないんです。それは、この作品全編がある金持ちに仕えて秘密ショーを取り仕切る男が、客である読者に語りかけるという形式になっているからでございます。私が昨日の日記から一人称を私に固定して、こういうように妙なありさまになっているのも、ひとえにこの本を読んだことによるものであります。
 さて、このエロス小説ですが、まあ、エロスの小説なのですね。簡単に言いますと、さまざまなセックスの取り合わせを盛り込んだ、プチ『ソドム120日』とでもいいますか、そのようなものでございます。語りかける「私」はある大金持ちの奥様に手を出し、それがばれてその夫の目の前でやるよう言われ、さらにその逆も行わされるのであり、ここらあたりは私の寝取られ話好きに引火する場面でもありました。その後のさまざまな組み合わせ、すなわち「私」にとっての地獄のお遍路さんが続くわけであります。表現などに『官能小説用語表現辞典』(id:goldhead:20050608#p1)に取り上げられるような奇抜なものはありませんが、十二分にエロが描かれており、曼陀羅ついでに買ってよかったと思うところなのであります。