世界柔道を見た

http://www.nikkansports.com/ns/sports/p-sp-tp0-050910-0005.html

 痛みなど感じなかった。1分20秒すぎ、泉はこん身の大内刈りでイリアディスをたたきつけた。「きたー、ヨッシャー」。3回戦で痛めた右腕を突き上げた。どこまでも高く両腕を掲げた。悲願の世界一の称号をつかみ取った。

 俺は人並みに総合格闘技が好きで、人並みの収入があれば地上波以外の放送に確実に手を出すだろうと思う。そんな俺が、総合を形作る諸々の格闘技の中で、もっとも見ていて面白いと思うのが柔道だ。今回、フジテレビの放送はかなりPRIDEやK-1風の煽りVTRを入れていたけれど、柔道は単体で興行が成り立つんじゃないか。一試合五分は長すぎず短すぎず緊張感を持続でき、手数が少なければすぐに「指導」が飛ぶ。なんというか、実に魅せる作りになっている。
 もちろん、こういった競技柔道、世界ルールでの「JUDO」が邪道だという人も少なからず居るだろう。「あの、青い柔道着は何だ! しょせん外人には柔の道を理解できない!」と。それがまあ、柔道に打ち込んできた人が言うのならば多少はわかるけれど、例えば俺のように学校の授業で触れた程度の人間には、ちょっとそういうことは言えない。何となく日本発祥というだけで、あまりやったこともない柔道を、海外の有段者よりわかったような気になってる。そんな心の動きというのは確実にあるもので、そこら辺は注意したい。たとえば、昨夜解説をしていた篠原信一ドゥイエに敗れた試合。あのときも、そういった妙な民族意識に火がついてたように思う。まあ、学校の体育で柔道の受け身を教わった俺からすれば、あれは間違いなく誤審だったけどな。
 えーと、そんなわけで、何かがグローバル性を獲得すれば、それと同時にドメスティックな何かが失われるのは仕方ない。それでもいくらかの日本的な何かが世界に伝わってるはずなのだ。それでいいじゃない。そして、日本の柔道家が「JUDO」でも力を見せつければいいじゃない。
 というわけで、泉浩は見事だった。なんだかもう、痛めた右腕が辛そうに見えたが、決勝の見事な一本。相手の力を利用して投げる柔道の神髄か、とか思ったね。よう知らんが。
 銅メダルの小野卓志はイケメンだった。ケミストリーのカープファンの方をビルドアップしたみたいな。‘ハングリーウルフ’なるキャッチフレーズはどうかと思ったが、今後に期待したい。
 あー、正直に言うと、今後ってのはどうも総合格闘技でプロデビューとか、そういう願いが混じってる。柔道に夢中になっていながら、こんなことを考えるのは選手に失礼かもしれんが、まーしゃーない。そんなわけで、女子選手の悲喜こもごも(昨日はあまり喜はなかったか)にも触れず、これで終わりとする。