『ジョゼと虎と魚たち』/監督:犬童一心

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 俺はくるりの「ハイウェイ」という曲が偏愛的に好きで、この曲ばかり繰り返して聴いたりもする(id:goldhead:20041006#p3)のだけれど、これが提供されたところであるこの映画は未見であった。で、去る10月9日に機会を得てDVDで観賞した。この映画のいいところはだいたい100個くらいあるんだけど、そのうちの2、3をメモしておこう。

◆本について
 ジョゼは家の中で婆さんの拾ってきた本を読み漁り、それを丸暗記してしまう。ジョゼと本とは不可分のテーマである。そんなこの映画の中で、一番重要な部分を担う本は、「SMキング」と考える人は多いだろう。ちなみに、エンドロールに「ワイレア出版」の名も見えたので調べてみたが、ワイレア出版が出しているのは「S&Mスナイパー」であり、「投稿キング」。「SMキング」はかつて団鬼六が発行した雑誌名らしく、ここに何らかの拘りがあるかどうかは知らない。  以上は冗談である。そんな話はどうでもよろしい。本当に大切なことは、積み上げられた本の中に『性学事典』(ウィーン性科学研究所/高橋鐵ASIN:4309241425 …Amazon高橋鉄ではなく高橋鐵とすべきではないのか?)の背表紙が見えたことである。作中で一切触れられていないので、俺の見間違いでなければ、だが。しかし、実家にあったので、おそらく正しい。そして、後に「この世でいちばんエッチなこと」言ってることへの伏線となっているのだ、これが。俺はそう信じて疑わない。……サガン? ナニソレ?
◆おっぱいについて
 勘違いしないでほしいが、池脇千鶴のおっぱいの話をするのではない。この映画に出てきた三人分のおっぱいをまとめて語りたい。そう、俺はこの映画のおっぱいを高く評価したい。だいたい、エロビデオに出てくる女優のおっぱいは、あまりよろしくないと俺は常日頃から思っている。何も人工品に限らず、どうにも出来すぎでよくない。俺はもっと、日常的なおっぱいがいいのだ。だいたいにして、ほとんどの人類は裸になったら貧相でだらしがない。おっぱいもほどよくだらしない方がいい。たとえば、志村けんのバカ殿様のサービスシーン(最近では乳頭露出がなくけしからん)で何気なく放り出される、あの貧相さだ。言うまでもないことだが、大きさの大小の問題ではない。そういう意味で、この映画にさらされたおっぱいは、どれもリアルな佇まいで味がある。俺は日本映画を見ていてこういう場面に出くわすとうれしい。あと、妻夫木聡はいい役で、なおかつ役得だったと思った。
◆ハイウェイについて
 この映画で最高のシーンは、ジョゼを連れて自動車旅行に出るところだろう。通り過ぎていく街並みに、高速道路のトンネルの中のオレンジ色の不思議なうつろい。子どもの頃を思い出す。まさに、それだった。それをここまでちゃんと描いた映像ははじめて見た。最高だ。惜しむらくはちょっと短い。この調子で一時間くらい続いてくれてもよかったと思う。その間ずっとくるりの「ハイウェイ」流しっぱなしでいいと思う。そういえば、一回だけ見た覚えがある「ハイウェイ」のPV。これもそこらへんに停めてある車に勝手に乗ってどっか行ってしまうかなり素敵なものだったが、今調べたらそれも妻夫木君の出演であった。
◆道について
松岡正剛『花鳥風月の科学』より

 われわれは「道」というものにたいして、おおむね二つの基本的な気持をもちます。「この道からどこか先に行きたい」(from here to there)という衝動と、それとは逆の「道の向こうから何かがやってくる」(from there to here)という畏怖との気持の二つです。その「ここ」(here)と「向こう」(there)の関係を結ぶもの、それが「道」なのです。

 上に書いたハイウェイを走る感じ、つきつめれば道のことなのだろう。そのさいの俺の興味は出発地「ここ」でも目的地「向こう」でもなく、「道」という関係性そのものということになるのかもしれない。継続への憧憬? ジョゼと主人公の旅もそのように見受けられる。故郷や海、ラブホはかりそめの目的地のように思える。あるいは、主人公が原チャリで走る道も、乳母車が突進してくるのも道だ。道について意識的なように思えて好もしい。
 ところで話が無茶苦茶変わるが、GT4というゲームが(レース&)カーライフシミュレーションを名乗るのは納得がいかない。たしかに車も種類がたくさんあって、背景もリアルだ。しかし、あくまでコースをぐるぐる回るだけで、それのどこがカーライフか。道を走る乗り物、それがカーであってグランツーリズムでしょうが。「ここ」と「向こう」の移動がない。ここを補完したら素晴らしいゲームになる。われわれ現実の旅は映画で見るようにはいかない。雑莢物が多すぎる。それでももちろん面白いが、純粋な移動を、旅を抜き出したような、借りたヤンキー車でもいいから、それで、自由に、道を、そういうゲームがやりたい。

 まあ、こんなところか。