深夜の一席

 テレビに分類するがラジオの話だ。俺は徹夜で仕事をしていた。日曜日の二十七時、二十八時となるとテレビも眠りラジオも眠る。俺も眠りたかったが、そうはいかない。果たして音があった方が目が醒めるのかその逆なのかわからないが、俺は音を選んだ。FMヨコハマが沈黙したので、俺はJ-WAVEに合わせた。合わせたら、落語の独演会が始まったのだから驚いたよ。NHK-FMじゃないかと疑ったくらいだ。そして、その落語がとても面白くて、少し横になってしまった俺は眠らずに済んだのだから大した効用だった。
 その落語家は笑福亭福笑という名前だった。ちょっと失礼じゃないかという質問をする女性パーソナリティーのインタビューによれば、関東どころか地元関西でも知られていないなんて言うけれど、その真偽すら俺にはわからなかったな。最後、強烈に女性パーソナリティーにしっぺ返しを喰らわせて、FM貴族嫌いの俺は快哉を叫びそうになったよ。
 噺の方は古典の「ちりとてちん」と、創作落語の二つだった。どちらもとても可笑しかった。表情や仕草に対する笑いが漏れ聞こえてきて、様子が見られないのが残念だったよ。もちろん、俺は『タイガー&ドラゴン』を見たくらいで、落語のらの字も知らないよ。それでも、文句なく笑えたんだ。絶対に徹夜中のハイテンションというわけじゃなかったぜ。
 そういえば、あまりなじみのない音が聞こえてきたな。噺のところどころで「パンッ」とタイミングで聞こえる音。噺の中でもインタビューでも触れていたけれど、上方落語独特の見台と膝隠し、それに小拍子とかいうものという。お、検索したら出てきた(http://www.nikkei.co.jp/weekend/kat/20050304sy834000_04.html)。この「パンッ」てのがよかったな。
 しかし落語か。インタビューでもまだ『タイガー&ドラゴン』に触れていたけれど、落語ブームというのは本当にあったのだろうかね。すくなくとも俺は、結局触れずに通り過ぎてしまったよ。土曜の夕方だったか、NHKの新人演芸コンクールみたいなのをやっていて、その落語部門も思わず見てしまったけれど、やはりそれも楽しんだものだな。そういえば、それも関西だったか。ひょっとすると、粋でスマートな関東の落語よりも、どこかしら漫才に通じるところがありそうな、上方落語の方が俺には楽しめるのかもしれないな。まあ、そう思ったところでいけ好かない桜木町の演芸ホールに行くつもりはないし、そもそもオケラなのだから行く資格もないのだけれど。