石川町、交差点

 昨夜の帰路の話である。横断歩道を渡ろうとすると、先に渡っていたおっさんが車の前に立ち止まる。俺は何事かと思う。おっさんは再び歩き始める。再び歩き始めたおっさんの足どりがおかしいことに気づく。まるでコントのような千鳥足だ。コントでしか見たことがない千鳥足だ。おっさんは歩道も車道もなくふらふらと歩いていく。高速道路の下の十字路。おっさんは赤信号もなくふらふらと進んでいく。向こうからタクシーが来る。俺は心の中で、いいぞ、そのままだ、と思う。そのまま行くんだ、いけ、いくんだおっさん、と思う。しかし、自動車の信号は赤になりタクシーは何事もなく停止線で止まり、おっさんは川の方へ進んでいく。俺は俺の望みなど俺がなさなければなりえないことだと気づく。俺は俺の望みは俺がなさなければなりえないことなんて、ずっと前から知っていたのに。おっさんは千鳥足でどこかへ消え、おっさんを見ていた歩行者たちもどこかへ消え、俺もどこかへ消えてしまう。