原辰徳の野球

 クラクションが鳴って、ようやく俺の鍵は俺の手に戻ってきた。「すいっっせんしたぁ! ぁざぁ〜す!」と俺、偽体育会系の挨拶。走り去る車。振り返ると部活帰りの女子中学生みたいなのがこちらを見ており、俺は頬を赤らめた。
 家に帰ると長谷川昌幸が登板したところだった。長谷川は髪などをかっこよく仕立てて、ますます男前に磨きがかかっていた。大リーグ志望(それゆえの背番号「42」)ゆえに、マーティー・ブラウンの元で期するところもあるのだろう。いや、髪形でアッピールしても仕方ないが。それで、長谷川は今期やってくれそうな雰囲気は見せてくれた。……が、その後のカープは見るも無惨。ロマノは打たれ、執拗な盗塁の前に今までの堅守も崩壊というありさま。打線は逆戻りであった。
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 それにしても、今シーズンの巨人は違う。とても良いチームになった。俺は根っからのアンチ巨人ではあるが、良いチームは良いチームなのだ。それもひとえに原監督の野球が奏功しているからであろう。
 第一期原政権のときを思い出す。正直、「ジャイアンツ愛」などとシーズン前に言ってるのを聞いて、「この○○○○○が監督なら、今年の巨人は最下位だな」とか思ったものである。俺は原が現役で輝いていたころをよく知らず、晩年の悩める姿の印象が強い。さらには、俺が小さなころから敬愛する、いしいひさいちの漫画のイメージ。それだけに、どうにも原の力を侮りまくっていた。しかし、シーズン後の快進撃を見て、その考えは百八十度変わる。原はとても良い監督だし、巨人は良いチームになった。だから、その後の‘悪太郎’へのスイッチは、他チームのことながらどうにも解せない思いをしたものだった。なんなら、原、カープの監督になれ、くらいのものである。
 そして、今期。相変わらず妙な標語を掲げるあたりはかわらないが、開幕からここまでこれ以上ないくらいの好ダッシュ。いやはや、大したものじゃないですか。しかし、なんともあれこれ仕掛けてくる采配だろうか。テレビゲームかと思えるくらいに、俊足走者には盗塁、盗塁。リードを奪えば早めに守備固め。ちょっと動きすぎのきらいがあるくらいのものである。
 そして俺は一つの記事が思い当たった。それは、原が未だに‘親子鷹’で知られた父の強い影響下にあるという記事だ。その記事ではまるで原が父親の操り人形だ、みたいな揶揄するような書かれ方をしていたのだが、それがいいんじゃないのか、と思ったのだ。
 原の父親、原貢はアマ野球界にその名を轟かせた名監督である。その薫陶をうけた息子が、父の野球を受けつぐ。それをプロの世界で展開しているのが、今の巨人ではないのか、と。見方を変えれば、明日なきトーナメント戦のようなアグレッシヴさ。これを、基礎能力が高いとされる巨人若手層に見事にマッチしているのではないか。実際のところは知らないが、俺はどうにもそう見えてきた。
 果たしてこのまま走り続けられるかどうかは知らない。しかし、今年の巨人は良いチームのように思える。それにひきかえ、我がカープは……と、去年までなら言っただろう。しかし、今年は違う。カープカープで生まれ変わろうとしている。漫然とただ試合を消化していた昨年までにはなかった、期待の胎動がある。俺の野球事始めが赤いカープと黒い巨人の戦いだった(id:goldhead:20040930#p3)ならばこそ、この二チームの生まれ変わりには大きな期待を抱かずにはいられないのだ。