「人体の不思議展」

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  • 先週の土曜日のことだ。晴れていたら、川崎大師に行くはずだった。しかし、曇天。「横浜美術館イサムノグチか、産貿ホールの人体」という二択になった。迷わず後者を選んだ。仏に会いに行くはずが、屍に会う。これも一興。
  • ちょうどネットでこの展示会についての話を目にしたところだった(http://news.2-3-0.org/comment/comment_200606_27.php)。現在ロングランしているものは、最初のころのものと別物だという。アカデミックなものか見せ物か。それは見るものの意識の差である。俺の趣味と見識と言えば、「あやしげな団体がバッタもの市場などでお馴染みの産貿ホールで行う死体展示会」により食指が動く。今となっては選びようもないのだが。
  • 客の入りには少し驚く。開港祭や山下公園でのドラゴンボート大会、そんなイベントがあるにせよ、ロングランのこの企画にも多くの人がおしかける。俺も、おしかける。お代は千四百円。
  • いつもの産貿ホールだ。がらんとした館内に、むき出しの壁、白々と蛍光灯。そして、死体があった。
  • プラストミック、案外肉っぽいという印象。俺はもっとプラスティックの質感を思い浮かべていた。何らかの何かを含浸した結果、そうなると思っていた。案外、肉っぽい。
  • ミミガービーフジャーキー、中華街の食材店で吊るされているなにか。
  • 解説パネルなど、知恵もしぼらず、金もかけずといった印象。まるで関係ない人体まめ知識的な内容など。高いガイドブックを買えばいくらかわかったかもしれないが。
  • 悪趣味なポージングをさせられる人。肉をびろびろに広げられて展開、攻殻機動隊に出てくるサイボーグのような人。右手と左手にそれぞれ臓物を持って二人いるみたい、真ん中は目玉だけ浮いていてまるでそれが本体、という人。これが悪趣味ツートップだった。
  • 混み合って客層はさまざま。カップルもいれば家族連れもいる。会話から医者らしき人もいた。その人について行けば面白い話が聞けたかもしれない。ちなみに、本物のお医者さまのガイドもあるらしい。
  • しかし、小さな子を連れてくるか。俺が過保護なのかも知れぬが、変なトラウマになりはしないか。そう思った。……が、やはり杞憂か。なれると平気ではしゃぎ回る子どもたち。人体、人体、また人体に飽きてきたのか、よりにもよって局部開帳の女性標本を吊るすか細い柱によじ上って揺すって遊ぶ。お前、それがドーンって前に倒れてきたら、心臓麻痺で誰か死ぬぞ、俺が死ぬぞ。そして、お前は新しい標本にされるのだ……て都市伝説はどうか。いや、心臓に悪いからやめなさい。
  • ベビーカーの赤ん坊がじっと標本を見るさまには、なぜかゾッとした。
  • 胎児の標本があった。成長の順を追って七体か八体。これなど、「本人の意思で検体を〜」とかいう建前すら成り立たないのではないか。胎児の足の裏には穴があって、海洋堂のフィギュアのように、立てて飾られていたのかもしれない。
  • 標本はほとんどが男だった。男たちの股間からは、冬虫夏草を思わせる、彼らのものがぶら下がっていた。無性に悲しくなるさまであった。俺がもしも標本になる運命だとしたら、これだけは避けてもらいたいと思った。
  • どうやって作ったのか見当もつかないが、血管だけになった人がいた。やはり、股間には充実した海綿体が見て取れた。これも、無性に悲しくなった。
  • 俺の感覚が麻痺したのか、俺が感覚を麻痺させたのか、最初から麻痺するなにものもなかったのかわからない。うんざりするくらい疲れたのはたしかだ。なるほど、これは一度見ておこうと思わせるだけのなにかはあった。何者かはわからず、どうしてかああなってしまった彼ら、そして、それに群がる俺、君、そしてみんな。もうじきこの世はおしまいか? そう思わないか?