昨日、俺はこう書いた。
……長い直線だが、外から二頭内に切れ込んでくるあたりに綾はないか。さらにシャイニールックやバンクレイドあたりも先団にはつけたいだろう。そこで生まれる思いがけぬハイペース。最後に直線を利して大外から一気にトキノシャンハイ……
俺の考えた、実現してほしいけれど、実現しなさそうな展望。まさにその展開が目前に現れた。トキノシャンハイの小柄な馬体が、一番外からのびてくる。俺は「山田!山田!」と叫んだ。叫びながら、勝利を確信した。まさか、まさかトキノシャンハイが後ろからズドンされるとは思ってもいなかった。これっぽっちも想像しなかった。差して届かずならいくらでも想像できた。差されるとは思いもしなかった。
差したのは18歳町田直希を背にしたビービートルネード。馬券の上では完全に無視していた。馬券以外のところでは気になった。ダービーの返し馬、このコンビだけがスタンド前を長いことうろうろしていたのだ。カメラを持った俺はついつい彼らの写真を撮った。まさか馬券に絡むとは、勝ってしまうとは思いもしなかった。
パドックではシャイニールックが見栄えした。金ぴかのメンコ(ゴールドヘッド!)を光らせて、よく目立った。9Rには兄のダイタクデヘラーが出走していたが、生粋のダイタク血統。父親はダイタクサージャンという渋さながら、なるほどなっとくの人気だと思った。羽田盃馬サンキューウィンもよく見えた。手綱引く厩務員からも自信みなぎる様子がうかがえたように思う。
俺の本命のトキノシャンハイはどうだったか。430kg台の、このカテゴリ、クラスではあまりにも小さな馬体。黄色いメンコ(イエローパワー?)は鶴首しなり過ぎて下を向いて、気合いは入っているのだろうが、それほどよく見えないのが正直なところ。しかし、今は死んだふりでいい。俺はそう思った。それに俺は、山田信大を信じること厚い。
東京ダービーの一つ前の10R、俺は山田の乗るロッキーダブリンを本命にした。おあつらえ向きの追い込み馬。これが二着に入って馬単の裏で四十倍。思いきり山田と叫んだ。
その前に叫んだのは8R。パドックでよく見えたリワードレジェンダを買って、繁田の名を叫んだ。内田の馬相手に馬連で三十倍ついた。
俺が大井についたのはまだ明るいころで、俺は腹が減ったのでとりあえず牛スジ串とモツ串を食った。すこし涼しい風吹いていて、こんなに気持ちのいい世界はないと思った。そのときは、町田がダービーを勝って、トキノシャンハイが二着になって、それまでのプラスを吐き出すことになるなんて、これっぽっちも想像していなかった。
注:最終レースの輪乗り時、目にゴミが入ったらしいのを意地悪に撮っただけです。