『叶えられた祈り』トルーマン・カポーティ/川本三郎訳

叶えられた祈り (新潮文庫)
 待ち合わせのために駅の本屋をうろうろしていたら、思いがけぬカポーティ・フェア。そうだ、映画になったりしていたのだっけな。それで、この本の表紙がエドワード・ホッパーのすてきな絵だったので、思わず購入。俺は古本以外の本を買うのはかなりの椿事だが、きちんと巻末の解説を読んだ上でのこと。そうでなくとも、『冷血』、『遠い部屋 遠い声』、『夜の樹』、『ティファニーで朝食を』、『おじいさんの思い出』(id:goldhead:20050322#p1)など読んでしまっているので、ほかに道がないのだ。

―もし何でも出来るなら私は、私たちの惑星、地球の中心に出かけていって、ウラニウムやルビーや金を探したいです。まだ汚れていない怪獣を探したいです。それから、田舎に引越したいです。フロリー・ロトンド。八歳。
 可愛いフロリー。きみが何をいいたいかよくわかる。たとえきみ自身はわからなくても。まだ八歳のきみにどうしてわかるだろう?

 この本の語り手は小説家志望くずれの男娼で、上流社会に紛れ込んでいったりした話を語るというわけ。しかもその内容が、『冷血』ばりのノンフィクション・ノベルだったので、作者は紛れ込んだ上流社会からパージされてしまうはめに。それでもって、この作品は未完。いくつかの章のうちの三つだけがおさめられている。他の章は、少なくともいくつかは書かれていたらしいが、作者によって破棄されたという説が根強い。
 かりかりに仕上げられていて、いろいろの生臭い話のオン・パレード。俺は、ジェイムズ・エルロイでも読んでいるのかという気になった。これが、登場する人物たちについてよく知っていて、なおかつリアル・タイムだったら大変なことだったかもしれない。しかし、俺はいずれとも縁がない。縁がなくとも、生臭いの食ってなかなか美味しかったかもしれない。三つ目の「ラ・コート・バスク」なんてのは、ほとんどゴシップについての会話で埋められていて、その中でもデブの知事夫人の話など感動的だ。
 でも、できれば知ってる名前を見つけたいと思うのも下世話な話し好き。サリンジャーの名前なんか出てきたっけ。あと、ドロシー・パーカーの「ビッグ・ブロンド」って、なんかのアンソロジーで読んだぞ。これ(id:goldhead:20050420#p1)だ。なんだ、これと同じ作者が訳していて、カポーティの小説の中に出てくるということを書いていると俺は書いているじゃないか。まあいいか。
 こういうのってなんだろう。解説には「アメリカ文学の伝統であるホラ話(トール・トーク)の魅力」だなんてあるけれど、そういうものだろうか。そういえば、なんとなくジョン・アーヴィングの描く、奇妙な話にも似ているように思える。もちろん、ゴシップ話に終始しているわけじゃなく、ケイト・マクリーンの人物とかとても魅力的で、やはり、話が、続きが気になる。間が気になる。しかし、永遠に埋まることはない。完成していれば、より多くの涙が流されただろうに。
★☆☆★
 競馬ファンとしては、カポーティといえばカポーティ、父シアトルスルーの海外種牡馬を持ち出さなければならない。今年から産駒が走りはじめたボストンハーバーの父でもあり、妙に切られた名前を持つキングオブカポーテの父でもある。
 そして、このたびこの本を読んで思った。ひょっとして、上流社会を追放した上に、どっかの金持ちが嫌がらせで名前をつけたのだろうか? と。この馬の母の名前は「Too Bald」(ハゲ過ぎ?)。カポーティはアル中でヤク中でホモで、おまけに禿げていたか? 映画のフィリップ・シーモア・ホフマンは……禿げてるじゃないか(http://www.sonypictures.jp/movies/capote/index.html)。
 が、しかし、検索するうちにあることを知った。「capote」には一般名詞の意味もあるのだ。スペイン語で、「闘牛士が使うマント」のこと。ほれ、あの、ヒラヒラさせるやつですよ。カタカナでは「カポーテ」と書くようだ。だから、あと一文字入れなかったマイネルカポーテなんかは、あえて入ってなかった。こちらは、アメリカの作家なんか知らんという話だったわけ。
 となると、本家Capote号の由来はわからなくなってしまった。血統など見てみよう。
http://www.pedigreequery.com/capote
 うーん、父系のBoldと、母系のBaldの見事な配合。というわけでもないか。オーナーはThree Chimneys Farm(http://www.threechimneys.com/)って、アメリカの超名馬を擁するすっごい牧場ね。まあ、このクエスチョンへの答えはあきらめた。
 しかしなんだ、そのCapote号が勝ったG1が、BCジュヴナイルってのは皮肉というか、ぴったりというか。あと、Wikipediaによれば、こんな意味もあるらしい。
http://en.wikipedia.org/wiki/Capote

It can also mean "condom" in vulgar French.

 だってさ。