お稲荷さんはおそろしゅうございます。お寺の中にひっそりとあるさまは、この世ならぬ凄みがございます。思わずわたくしも、小さな鳥居をくぐり、お賽錢を投じ、お参りせずにはおれません。がらごろ、がらごろと鈴の音が響きます。二拍手の音も響きます。ここはまぎれもなくお寺なのですが、鈴の緒があるのだからほかにするべき作法もない。
本堂の方で、拍手を響かせる方が二人もいらっしゃいました。見れば、両人とも分別もありそうなご婦人です。別に一緒にやってきたわけではありません。普通ならば、常識知らずと言ってすませるところです。しかし、ここは真言宗の寺。お稲荷さんのほかに、聖徳太子堂だってある。ひょっとしたらあれも、和光同塵、本地垂迹、神仏習合の一つではないか、とすら考えてしまうわけです(まあ、稲荷神と空海の話はそのはしりとも言えますが、聖徳太子さまは元より仏教の側の人でしたか)。
調べてみました。どうでしょうか、あまり根拠のありそうな話は出てきません。密教には「拍掌」という作法があるようですが、一般的なお祈りとは違うようです。あるいは、彼女らは我々に悟られぬように真言を唱え、秘法をなしていたのやもしれませんが……。
ちなみに、入り口近くにある観音像は実に西洋風であって、ここがどこの国かわからなくなるようなものでした。ここらあたり、何でも取り込んでいこうという底知れなさを感じずにはいられませんでした。