『ぼくの交響楽』/田村隆一

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 桜木町、地下の古本屋にて購入。五百円、小口シミあり。
 「交響楽」などと銘打たれているものだから、音楽かなにかについてのエッセイかと思ったら、とくにそういうわけでもなかった。はじめは「動詞12カ月」(巻末の掲載紙誌一覧では「動物12カ月」になっていたぞ)、触れる、笑う、泣く……と動詞をお題にした連載らしい。

つらつら惟みるに、欧米の言語の原型は動詞にあって、ぼくらの国のそれは名詞のような気がする。欧米では、動詞が変化していって、名詞になる、たとえば、doからdoingへ。ところが、ぼくらの国では、名詞が基本であって、それに語尾がついて動詞に変化する。まず食という名詞があって、それに「す」をつければ、食すということになって、動詞とあいなる。したがって、社会もまた、欧米ではact中心の動詞社会であって、ぼくらの国は、action中心の名詞社会ということになるのだろう。

 ……などと始まるが、しょっぱなから「おさわりパブ」の猥談からはじまるのだからいつもの(という俺からするところのいつもは、いつのいつなのだろう?)田村節。どこかで読んだ沖縄での話や、金子光晴「から」金を借りる話なども出てくる。傑作なのは五月の「伸びる」で、いん毛の伸びはじめるころの話。チンボコの大きさまで書かなくてもいいのにさ。
 そしていくつかの思い出話、ついで「絵本太平楽」は、小学生向け歴史絵本をもとに、戦前戦中の自らの足跡を辿る。ここらあたりは今までも別のところで読んできた内容と重複するが、こういう風に年代順なのはなかったろうか。
 最後の二編はまるまる別の本に収録されているのを読んだっけ。もちろん、今回も読み直す。なんでこんなに田村隆一が好きなのかよくわからないが、とにかく古本屋では無条件降伏に近い。翻訳したロアルド・ダールはいくつか読んだが、いずれはアガサ・クリスティにあたろうか。