『聖書の旅』山本七平/写真:白川義員

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 聖書に「ダンからベエルシバまで」と言われているこの地は、日本の四国よりやや広い面積をもつにすぎない。

 この冒頭、グッと来るじゃありませんか。なんと、聖書の昔から存在し、今なお紛争の焦点になっているあのパレスチナが、四国程度というのですから。そうか、あの聖書の世界は四国くらいのもの。お遍路さんの延長に大キリスト教世界が生まれたのだとすれば、それは驚きですよ。いや、お遍路さん関係ないですか。それに、あえてそういったスケールを提示されることによって、聖書の世界というのが、あやふやな神話から、一つの具体性をもって立ち上がってくるようではないですか。桜木町地下、初版、蔵書印あり、三百円。
 細かい中身についてはいずれ書きたいけれど、忘れてしまうといけないのでとりあえずメモ。まず、自分は新約聖書を読んでみようと思い立ち、えーと、使徒列伝あたりで飽きた。旧約(同じくこれを聖典とするイスラム教、ユダヤ教などに配慮して、‘ヘブライ語聖書’とするのがポリティカル・コレクトネス的に正しいのかもしれないが、まあいいや)を読んでみようとしたら、本格的なものしかなく、パール・バックの子供向け『物語』(id:goldhead:20050803#p1)でお茶を濁したという程度。それでも、やはり聖書への興味はあり、また、山本七平については帝国陸軍ものやイザヤ・ベンダサンものを数冊読んでおり、この本は値段もあって即決。
 で、この本でまず印象深いのが写真。月面に近いような荒涼とした世界。「自然=豊かな緑や水」とすんなり想像できる日本人の発想からは出てこない自然。それでもって、たしかにこういう土地ならば、紀元数十年程度の遺跡だってそっくり残ってるわな、とか。
 そんで、考古学としての聖書、という考え方に目から鱗。というか、聖書なんてのはしょせん神話、おとぎ話、みたいな先入観あったが、単に四国程度の広さの中の一部族の歴史書でもあるわけで、あるいは異教徒、異民族の史料からいろいろのエピソードが事実であると証明できたり、遺跡も残っていたりと。ここらあたりも、風土が生み出す歴史に対する違いを覚えておもしろい。
 それと、戦記。やっぱりパール・バックのじゃ戦争色薄すぎだ。この、権謀術数の国盗り合戦、宗教色抜いたら「中東三国志」として人気を博しそうだ。ゲーム化すれば、ダビデは知力も政治力も武力も魅力も90台だな。いろいろのエピソードも興味深い。近代の戦争でイギリスの指揮官だかが、聖書の戦術記述を思い出して、当地でやって見事に勝利なんて話も興味深い。地形、変わらないもんね。
 あと、フラウィウス・ヨセフス(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%82%A6%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%A8%E3%82%BB%E3%83%95%E3%82%B9)。三国志ならぬ『ユダヤ戦記』の著者。キリスト教世界では聖書と同時にこのヨセフスの著書が大きな地位を占めるらしいが、はじめて名前を知った。この人物もとても興味深い。この人に関する本も欲しい。
 まあ、こんなところで。