絶壁の犬の目

 ……犬を助けるには絶壁のけわしい急斜面を降りていかなければならないが、人びとは先を争って犬を助けようとした。愛らしくけなげな絶壁の犬の姿を見ているうちに、人びとは日々の生活が荒れ果てており、夜見る夢も潤いのないものだと気づいた……心正しい人たちのなかから飼い主になるという人が選ばれた。すると、よし、それなら自分がその兄弟に、伯父伯母になってやろう、とみんなが言い出して、国中のものが絶壁の犬のおかげで親戚になった。……犬の思い出をいつまでも大切にするために、家の戸には明るい色のペンキを塗り、額に汗して岩を削って井戸を掘り、絶壁に花の種を撒くことにしよう……外洋を航行する豪華客船の船長は、十四ヶ国語を使って、ごらんなさい、皆さん、あのジャスミンの花の強くかおるあたり、あれが絶壁犬の国なのですよ、と船客に伝えることだろう……