土曜プレミアム『新・美味しんぼ』

 美味しんぼは狂っているから面白い。俺はそう思う。俺は、一応、百冊くらいの単行本を読んできて、そう思う。まあ、読んできただけで、最近はめっきり読んでいないし、あーんまり覚えているわけでもないけどな。で、いろいろな突っ込みどころや奇言、奇行がある以前に、何もかもが料理によって決まる世界観。根本がおかしい。しかし、その狂気をたくみに覆い隠し、行ったまんまにさせない、あの何とも言えないのっぺりした絵。そして落ち着いた演出。そして岡星。岡星だけはまともだと信じたい。
 岡星はともかく、『新・美味しんぼ』は開始直後に不安になった。単に脳が新しいバージョンにフィットするまでの間、というのではない。なにか、落ち着きがない。そうだ、オフィス、そうオフィスが明るすぎるのだ、東西新聞社の。調べてみれば連載開始1983年の作品。当時の「新聞社」と今の「新聞社」ではまったく別物だろう。こんな明かりの下では、山岡さんが溶けてしまう!
 ……という心配は不要なほど、2007年バージョンの山岡さんはビシッとしていた(つーか、原作も時代は進んでるはずだが)。松岡昌宏。うーん、立派だ。どのあたりがグータラ(死語?)社員なのか。これをフィットさせるには時間がかかる。今までの山岡さん、佐藤浩市唐沢寿明には、山岡さんらしいだめさ加減と、影があったように思う。あと、完全無欠のアイドル美男子ではなかった。このあたりの差は。
 というわけで、チャンネルをあやうく変えるところであったが、栗田さんの優香はなかなかフィットしている。というか、はまっているように思えた。ほら、顔の造形が原作っぽい。となると、オフィスはともかくとして、富井副部長などまわりはなかなか悪くない。岡星もいいし、団社長のうさんくささも悪くない。こうしているうちに、山岡さんもだんだんどうにかなってこようか。なーんか食いしん坊キャラになってるけど、こんなんだっけ。それで、麿赤兒など出てくればまあいいか。
 それで、忘れちゃいけないのは海原雄山松平健。キャスト発表時から「輪郭は合っていそうだが」と思っていたが、なるほど、だみ声に徹すればなかなかのはまりっぷり。ただ、ちょっとこちらも狂気が足らないか。でも、それが現代の雄山だろうか。でも、ちょっと爽やかすぎるな。意地悪さがないと。つーか、爽やか士郎に爽やか雄山じゃあ、どうにも締まらない。陰か陽かでいえば陰、体育会系か文化系かでいえば文化系。そういう両者の狂気の戦いだろうが。
 で、それを補うために、こんな過剰演出なのだろうか。これじゃあミスター味っ子じゃあないか。これの裏にあたる「演歌の女王」(第一回で見捨てちゃった)でも気になったが、このテロップ連発、ドラマに必要ですか。全部は否定しない。ただ、ちょっと隠し味で使うくらいがいいんだ。そんな味加減もわからんのか、愚か者め! でも、優香はよかったと思うよ、うん。(……でも、後からウィキペディア見たら、前のドラマシリーズも「ミスター味っ子」っぽいって書かれていた。覚えてない……)

※メモ:冒頭の外国人相手の会食。パキスタン国旗? サウジアラビア国旗? 緑色に月形。→パキスタン国旗。鹿の肉をイスラム教徒は食えるのか?→http://d.hatena.ne.jp/goldhead/20061201#p2→鹿は偶蹄目で蹄が割れ、反芻する。よって食べてオーケー。大まかにあの料理はハラールだ。ただ、ザバハを施した可能性はゼロに近いので、一番厳密な目で見ればハラームかもしれない。俺は何の話をしているのか。