藤澤和雄の一勝と一生

 NHK「プロフェッショナル・仕事の流儀」にて藤沢和雄調教師の特集。そうだ、競馬界には藤沢和師がいたのだ。対世間用、対テレビ用人材として。ディープインパクト武豊+池江調教師でよかったとは何度も思ったが、この藤沢先生でもよかったかもなだ。
 して、内容は、ゼンノロブロイとかシンボリクリスエスでなしに、ヤマトダマシイ、そしてタイキスピリッツ。ヤマトダマシイの名は、藤沢師について語られる場合、必ずといっていいほど出てくる名前だ。
 このヤマトダマシイに、藤沢師はいまだに涙を浮かべるんだな。これにはグッとくるね。けれど、こんな思いがあっても、競馬への情熱が消えない。これだけの人物が、見るからに競走馬に愛情をもって生きている人が、競馬をやる。ここに、競馬が本当に敵視されたとき(財政的理由よりもっと怖いものだ)の、最後の砦になるのだと思う。
 そして、タイキスピリッツ。この番組で一番興味深かったのは、この馬の入線後の横山典弘。軽く鞭を入れて、先頭まで抜いて終わる。こんなこともしていたのか、と。こういうこともするのか、と。効果があるかどうかなんて知らないが、いやはや、ミドリマキバオー復活の草競馬でもあるまいに。
 して、スタートさえ覚えさせられれば逃げ切りが勝利への近道と思うところ、そこでさらに先を考えて馬群に耐えさせ、後からの競馬をやらせようというのだからすごい。これが三歳馬ならともかく、この馬は五歳。それでもまだまだ先がある。これが藤沢流だよな、と。
 そうだな、俺が一番藤沢調教師らしいなと思う馬はといえば、マグナーテンid:goldhead:20050114#p3)。あるいはコイントスid:goldhead:20060405#p3)。こういった息の長い、遅咲きの馬こそが、一勝より一生の結晶、なのだろうか。こんな人が教師になっていたら、きっとよい人材を世に送り出したんだろうな。いや、人は馬より難しいだろうか?
 ……ってなんか藤沢センセ万歳って感じだけれども、実際のところ苦手だ。こうやって裏舞台でなにやってるか刻々と細かく伝わってくればいいけれども、競馬新聞からはなかなか難しい。タイキスピリッツだって、二番人気、三番人気であの成績。G1級ともなれば別だけれども、ここらあたりの見極めが。もちろん、藤沢厩舍の馬は良血ぞろいで、素質馬だらけ、それに厩舍の数字だってもちろんすごい。簡単に切ることなんかもできない。かといって、昔のスポニチの梅崎みたいに藤沢厩舍に目ェつぶってオール◎ってわけにはいかないし。まあ、こんなふうに愚痴ったところで、他の厩舍の馬なら馬券当たってるわけでもない。
 あとは、なんというか、美学、価値観の問題。一生より一勝の刹那感、覚悟。それもまた競馬。俺はそう思う。それに、藤沢さんとこの馬は、やはりもともとの高額馬。それに対して、本当に鍛えて強くする馬作りもあろう。そこんとこをどう捉えるか。なんとも言えないが、どうも藤沢厩舍の名馬たちに、一瞬のインパクトは薄いように思える。無論、それは調教師の狙い通り、彼の成功なのであるが(……というか、俺のゼンノロブロイシンボリクリスエスに対する感覚が変なのか。でも、シンボリクリスエスはグッドルッキンホースで好きだったけどな)。
 それでもともかく、最近関東馬愛に目覚めてきたところだし、やっぱりその大将格といえばこの調教師。なんとかうまくつきあっていこう。俺だってやがて本命、穴馬どんと来いの馬券G1人になれるかもしれないぜ。いや、オープン、せめて準オープンくらいには。