『ブコウスキー オールドパンク』

ブコウスキー:オールド・パンク [DVD]
 俺にとってチャールズ・ブコウスキーはアイドルみたいなところがあって、もうこういうドキュメンタリーなどはたまらん。何度でも見たい。というか、これはいずれ買う。
 ドキュメンタリーとはいっても、全編撮り下ろしというわけにはいかない。昔の映像がふんだんに使われている。各時代の、いろいろな国のテレビ局相手の生語りがたくさんでてくる。いや、いいなあ。さすがに、大暴れしたフランス国営放送の生番組の映像はないけどなあ。それで、最後の妻、ブコウスキーに賭けて出版を始めた男、友人、当時の関係者、つきあってきた女たち、そんな語りもふんだん。面白いなあ。いいなあ。トム・ウェイツ、いい顔してるなあ。今度曲を聴いてみよう。
 ああ、でも、ボノさんは微妙。なんか黒川紀章みたいなサングラスして、微妙。なんだかわからん。チュンバワンバがugh言ってたせいだろうか。それとも、最後の日記のやつに出てきたときの書かれ方かな。でも、逆に何とも、ある意味突き抜けていて、それもまたあり、という気もする。
 まあ、何にせよ、ええなあ。動いて、喋って、それに、いろんなものの映像が、写真がなあ。でも、残念ながら、競馬を観戦する動画はなかったな。写真と語りはあったけどな。ああ、でもいいんだ。競馬場、場外に来る、お前らろくでない男、ろくでなし女、世界中のろくでなし競馬好き、たぶんブコウスキーが見たものと同じものを見ている。ちょっと出てきた、ケンタッキーダービーでも、ブリーダーズカップでもない、ありのまんまのアメリカ人馬券オヤジ、オバサン、彼らの姿を見て、そのことに確信が持てたぜ。
 それで、やっぱりブコウスキー、我らがハンクは、我らなのだ、と世界中で、多くの、どちらかといえば、スクールカースト下部、外部、アウトサイダーアウトキャストブコウスキーのように、顔のひどいひどいニキビ、そういえば、ブラマヨのブツブツの方、背中までってエピソードあったけど、ブクと一緒なのか、まあ、いいとして、それで、向こうの高校生の卒業パーティ、それを、その外から、入れずに、その光を見る、そういう世界中の連中、俺はあれだという、惨めな青春、初体験は24歳で、相手は136kgの娼婦、そういう。
 で、我らがブクは、大器晩成、遅咲きで、女を、できなかったものを取り返してみせる、すごい末脚。差しきった、その先の墓標、墓に記された文句、

Don't try.

 挑戦するな? 流れに身を任せよ、ということ? ではないと、妻も、この監督も言う。それはすなわち「do」であれ、「be」であれという、そういうことだと。トライではない、やれ、なれ。しかし、だからといって、墓標には(フーズフーに載せたコメントだが)、「Just do it」ではなく、Don't try.なのだ。これは、ともすれば、二重の意味、即非のような、なんというか、禅のような。
 ……と、似非禅に取りつかれた病理の俺、なんでも禅に見えて困るお年頃なのだけれども、妻曰く最晩年は瞑想に凝り、毎日の習慣として自然にやっていたというし、この監督も特典映像のインタビューで、ブコウスキーには仏教的、仏教徒的なところがあると言っており、ほれどうだ、どうだ、と俺。大慈悲心の持ち主であり、なおかつ、苦海にあって同じくもがく存在。彼の書いたもの、労働者のための詩、シモーヌ・ヴェイユが労働者には詩が必要だと言ってたと鈴木大拙が言ってたその詩ではないか? シンプルに、そのものズバリ指し示す、詩(それゆえに、非母国語人には難儀するところもあるのだけれど!……二冊ばかり原書を持ってるんだけど、ひさびさに引っ張り出すかな)。
 つーか、もう、そういう辛気くさいもんでもねえしな。でも、晩年、特典映像の、生前最後の映像(朗読するは『死ポケ』収録の「91年8月29日 10:55PM」。「これは詩だ」と言い切った)の、実にリラックスしたふるまいなど見ていると、そこんところの、何か抜け落ちた、でもビールぐびのみするあたりの、なんともまあ、猫と戯れ、妻とも仲良く(色んな女の人出てきたが、この人やっぱり一番だわ)、の姿はいいものがある。それで、毎日競馬に通う、いい境地だろう。そんなふうになれたらいいな。いや、なれ、なる、難儀。

★☆☆☆☆
 日記で確認できるのは以下のところか。このDVDとの関連などをメモ。

  • 『死をポケットに入れて』(id:goldhead:20050809#p1)……晩年の、マッキントッシュを使うオールド・パンクの日記、いや、詩か。映像を見て、何かいい意味で抜けきった、よさ、よりしっくりきた。
  • 『ポスト・オフィス』(id:goldhead:20050812#p2)……郵便局勤めの日々。DVDにも出てきた。実際には、一回辞めて、また復職したりしてんのね。それで、その後、出版人が「何もしなくても月100ドル払う」と賭けに出て本当に退職、ついでに「詩より小説の方が売れるから、そっちの方がありがたい」みたいなこと言って、なんと最初の一月で書き上げたのがこれ、ということか。そういや、元同僚が出てきて、ムートさんとかいう名前で、作中では「モト」という名前になったとかで、「日本人には悪いけど、もっとフィクションらしい名前はなかったのかな、ナントカツィーノとか」みたいなこと言ってて、それで、今ちょっと本見てみたら、「モート」という風になっていて、これが日本風という意図は訳されていなかったのであった(が、この友人氏が日本風と思ってるだけで、ブコウスキーの意図はしれない)。あと、この本に書いてある内容は、actuallyだ言ってた。
  • ブコウスキーの酔いどれ紀行』(id:goldhead:20050817#p3)……ドイツ人の友人ってのが出てきたが、この本に出てくる人だろうな。あと、この本と『ポスト・オフィス』が、海外でも出版され、というくだりで出てきた。
  • 『くそったれ! 少年時代』(×××)……あれ、これ、スゲェ書いた覚えあるんだけど、そういや、途中までで、アップした記憶ねえけど、今探しても、見つからない。くそ、くそ、くそ。これこそが、その、くそ。