横須賀美術館『澁澤龍彦 幻想美術館』

 アルフレッド・ウォリス展に続いて横須賀美術館、‘海に生きた素朴画家’の次が澁澤龍彦という落差も面白い。この展覧会、文字通り『幻想の肖像』や『裸婦の中の裸婦』で取りあげられた作品が一同に集められ……、なわけないけれども、取りあげられた芸術家の作品が展示されているわけ。しょぼいモノクロの文庫本でしか見ていない俺、一応押さえておこうって思うわけ。かつてシブサワに耽溺する美少年であった者(誰が)には、当然のチョイスなわけ。
 けどなんだろ、最近どうも俺が澁澤龍彦好きな理由がわかってきて、なんつーか、すげえ健康じゃんこの人。精神的にもそうだし、大病を患ったりしてるし、最後も病気で死んだけど、どうも肉体的にもお達者なところもあるじゃん(こないだの近代文学館での展示でそう思った)。で、別にそれを隠そうともしねえじゃん。でさ、その上で、なんか幻想、耽美、異常、異端その他もろもろを取り扱ってさ、そっち側に身を置いてさ、なんかそのギャップが面白いっつーか。たとえば、展示品にパンフとかそういうのとかあったけど、そういう口上なんかも、なんか内容とは乖離したノリノリの売り口上みたいなところもあってさ。でさ、じゃあ完全に健康な戦中派、昭和の子かっていうと、やっぱりそうじゃねえよって、もっとドロドロしたところもあるんじゃねえのって入れ子マトリョーシカ。でも、そこんところはLEVEL6 GHOST LINEでミスティフィカシオンしちゃうんよ、こわいこわい。
 それはそうと、展覧会じゃん。けっこういろいろ集まってたって印象あるよね。なんか、この美術館単独でなしに、埼玉とかでもやってたらしいから、けっこう力入ってるのかもしれない。大物、といえるかどうか知識がないからわからないけど、それなりのもの(価格的価値的に?)があったんじゃねえかって思う。
 たとえばポール・デルヴォーが一つ。この目か、という印象。さらにはアルチンボンド。「なんで大阪市港湾局がアルチンボンド持ってるんだ?」と疑問に思う(どうでもいいか)。ルドン、ルドンは黒いリトグラフ二つのほか、『花』というタイトルの油彩が一点あって、なるほど、ルドンのカラーは鮮やかだというけど、本当だな、と。ギュスターヴ・モローは、エッチングに驚く。モロー展には出てなかったと思うけど、驚異の細かさ。油彩の方に、後から手を入れたのって、こういう細かさを入れようとしてたんかな? 知らないけど、いやはや。マックス・エルンストは『カルメル修道院〜』の原画(?)、が一つ。まあ切り貼りであって、切り貼りしてるのが見え見えであって、印刷するのが目的なので材料みたいなものだけれど、「ホンモンじゃん」感はあったりとか。バルテュスリトグラフ二点に油彩一点。嵐が丘のシーンを描いたリトグラフは、なんだかどうも漫画みたいな、とか。油彩の方は……どんなんだっけ。あと、意外なところでワイエスが一点あったっけ。
 写真も記念写真的なものから、作品までいろいろあって、細江英公の、土方巽を写したやつがあって、やっぱり写真も実物は違うなぁって、これはすごかったっけな。
 そいと、立体というのかそっちでは、ほれ、マン・レイによるサド像、それに絵もあったっけ。もちろん、四谷シモン。上の方に展示されてる『天使―澁澤龍彦に捧ぐ』は、存在に気づいていない人もいた(同行者)ので注意。
 ……と、なんかミーちゃんハーちゃんなところだけメモ。作品、作者のジャンルに幅があって、正直ちょっと覚えきれない。ぶっちゃけ言うと「マンコ多い展覧会だったな」とか、しょーもないところに落ち着いちゃうわけ。
 ああ、でもさ、ちょっと記憶飛ぶような理由もあってさ、最後の最後のところで、急に美術館の中に「ドヤドヤドヤ」って騷がしい空気が入ってきたわけ。何かと思ったらNHKのカメラと、何かの先生みたいなのと、それを聞くおばちゃんたちみたいので、これがやかましい上に、カメラは傍若無人に機材振り回すしさ、はじめに小声で「ご迷惑おかけします」ってスタッフがつぶやいたくらいでさ。そんでさ、どんと写真の前に陣取った一団、センセーが「シブサワの家はねえ」とか「キシンの写真はさ」とかがなり立てる。それでさ、その撮影の横を通っていいのか、でも、スペース少ないし、いつ終わるのかわかんねえし、ありゃあ頭に来たな。そういう撮影するんなら、ちょっと事前に人を止めるとか、そもそも閉館時間にやるとか、ちょっと考えろよ、馬鹿。まったくやるなとは言わんから、せめて、ちゃんと仕切れよって。
 って、なんかあれだな、NHKはどうでもいいか(あのセンセー誰なのかちょっとは気になるが)。ええと、それでだな、こういう試みの美術展も面白いねって。美術展のほかにもさ、『フローラ逍遥』(スゲエ好き。こればっかりは単行本だ)の植物を集めた植木市……? まあ、ええことよ。
フローラ逍遥