『変態家族 兄貴の嫁さん』/監督:周防正行

変態家族 兄貴の嫁さん [DVD]

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 有名な小説家の小説の濡れ場のひどくエロいのなどを見ると、「こういう作家が官能小説を書いたら、大変なことになるんじゃないのか」などと思うことが間々あって、映画でも同じようなことがあるのではないかと思うのである。周防正行のデビュー作といえば『変態家族 兄貴の嫁さん』なのであって、これが気にならないはずがなかったのだけれども、ようやく見ることができたのである。
 私は小津安二郎の映画をきちんと観たことがないので、監督自身が「小津に関しての卒業論文のようなもの」とか、「パロディでなく真似、なりきって撮った」(森村泰昌みたいな感じか?)とか言うところの小津要素についてはなんとも言えない。言えないけど、これがなんとも奇妙で奇妙でとてもエロいエロい映画であって、たいへんに満足したのである。おまけに、ここから小津安二郎の映画を観てみようかという気になったからたいへんなことである。小津映画に変態家族は出てこないらしいが。
 そういうわけで、私が声を大にしていいたいのは、最近のアダルトヴィデオにアップが多すぎるということである。そんなに大映しにしなくたっていいじゃないかというくらいアップアップで参ってしまう。こないだの東スポの連載で睦月影郎(a.k.aならやたかし)の述べるように、エロは感じ取るものであって、与えられてあり、押しつけられたりするものではないと思うのである。むろん、アップにはアップの良さはある。しかし、ちょっと引いてみて、覗き見するような、そんな距離感が必要ではないのかと思うのである。さらに言えば、結合部分のアップなど、「疑似でないですよ」という確認のため、一瞬映ればいいのである。男のケツと玉袋の裏が目一杯になって前後に動く挿入シーンなど、嫌がらせじゃあないですか。
 この映画で一番エロなのはどのエロでだろうか。変態兄貴の長丁場に、寝てしまうところ。本来肉体的SMを見るのが苦手なのに、なんかすごいと思ったあのシーン。それとも、最後の、ビニールテープからの、オナニー。どれも捨てがたい。が、やはり私は映画のタイトルであるところの、義理の弟目線の性交シーンを挙げたい。肉感的な兄貴の嫁さん相手に童貞喪失、というのに、「一回だけよ。すっきりしましょう」というのに、あの、自動人形か死体を相手にしてるかのような、味のない、観るものの期待もずんどこに突き落とすような、あの性交。あの性交を、こっち側の低いところから、遠目に撮るでしょ、そこがエロいのである。
 ピンク映画はいいのである。まだ若い大杉漣がものすごい老け役として笠智衆の立場に収まる、すさまじい自由があって、エロがあるのだ。周防監督が衝撃を受けたというピンク映画、今、観ることができるのだろうか?