死を覚悟してみた

 競馬が終わって夕方からふて寝。目を覚ましたのが午後九時。そのままベッドから這い出ずに本を読み出して午後十一時。飯を食ってポケーとテレビ見て気づいた深夜二時。もう寝ようと思い、ベッドへ。それでも眠るわけでもなくケータイでダラダラと麻雀アプリ。目に違和感。ゴミがついているのか。取ろうにも取れない。部屋を明るくして、鏡を見る。
 ……なんだこの顔? おでこに、ほお、あご、赤く腫れ上がっている。まぶたのふちも腫れている。首筋もひどい。蕁麻疹だ。蕁麻疹以外のなにものでもない。

 この蕁麻疹、原因がはっきりしてからは、かなり気が楽になった。薬を飲めば、ひどく腫れ上がることなんてないし、なにより、痕が全く残らないというのがいい。鮮やかなピンク色のキスマークみたいな模様が出ても、いつのまにかきれいさっぱり消えて終わり。いつまで続くかわからないが、薬を飲んでいればいずれ消滅するだろう。それくらいの心持ち。年明けに医者に行ったが、「薬を飲んで眠れるなら、そんな重症じゃないでしょう」と言われたし。ようするに、もうちょっと油断していたのだ。
 が、顔に出た。あまりかゆくないから気づかなかった。顔に出るなんてはじめてだ。夜更かしするとよく出るが……、などと思っていると、今度は口の中に違和感。左ほおの内側が腫れたようになっている。そして、それを舐めて確認する舌自体が腫れてきた。あれ、なんかやばくないか? 口の中って。しかし、こんなタイミングで、同時に口内炎ができるとか、そんな話はないだろう。
 そして、ついにだんだん、呼吸が苦しくなってきた。俺は、ポーンとひらめいて、ネットで調べた生半可な知識を思い出す。「気管にできたら、窒息死するって書いてなかったっけ?」と。あわててアタラックスを追加で一錠飲む(ベッドに入る前、ピロラール一錠飲んでいた)。表現上でなく、膝がガクガクしてくる。「きゅ、救急車呼ぼうか……」。
 ……だけど、じんましんで救急車呼べますか? 俺は呼べなかった。救急隊員がたどり着いたときに、すっかり治っている可能性すらある。そして、「まさか死ぬことはないだろう」ではなく、「まあ死んでもいいか」という方に針が振れたというのもある。そんな大げさな? いや、深夜顔とか口の中が腫れあがって、胸がつかえて息が苦しくなってくると、そのくらいのことは考えるものですよ。
 そして、俺は、出しっぱなしになっていたエロDVDをしまうなどする。死後にエロDVDが見つかろうがどうでもいい。どうでもいいけれど、出しっぱなしにして死ぬのはよくないと思ったのだ。たとえば、今俺はパソコンを持っていないけど、もし持っていて死ぬとしよう。HDDの中にエロファイルが何ギガもあるのはいい。でも、立ち上げたときにエロフォルダが開いているのは避けたい。デッドラインで気づく自分の美学。
 さあ、美学の見きわめもついたし、死ぬか。と、能動的に死ぬつもりはなかった。しかし、まぶたと口の違和感で、眠ろうにも眠れない。しばらくテレビ(大槻教授ゴルフクラブの宣伝をしていた)など見る。しかし、寒い。室温が10℃を下回っている。仕方なくベッドで横になる。呼吸は相変わらず苦しい。緊張による過呼吸のようなものもあろうだろう。いずれにせよ一緒だ。つばが口の中にたまるが、それを飲み下すのにものどに違和感。呼吸困難一歩手前。どんな体勢でも楽にならない。このまま眠りに落ちたら、気づかずに死ぬだろうか、などと考えるが、眠れないのだからつらい。六時くらいになったのは覚えている。
…………
 次に目を覚ましたのは、お昼すこし前だった。メールの着信音の一瞬前に目を覚ました。鏡を見る。顔から赤い腫れはひいている。しかし、まぶたは少しはれぼったいようだし、口の中の違和感が残っている。そして、のどの奥の違和感。息苦しさもあるが、むしろ食道。水を飲んでもしこりを感じる。シャワーを浴びるとき体を見ると、少しひっかいた痕が残っているくらいだった。俺は、着替えて、会社に来て、こうして座っているわけだが。

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※参考

皮膚以外にも口唇や眼瞼などの粘膜がひどく腫れたり、特に呼吸器症状が急激に出現し声帯浮腫による窒息やショックに陥ることもあります。

http://www.hoshialle.jp/pc/free4.html

※これを目にしている人各位。病気の自己診断は危険ですので、すみやかに医師の診断を受けますように。