このように冷たい雨の日というのはどのようなものですか?

 このように冷たい雨の日というのはどのようなものですか?
 このように冷たい雨の日は、ものごとにたとえるなら雨の日の府中競馬場、一頭だけ四コーナーを内ラチぎりぎりに通って回ってくる黒い遮眼革つきの黒い馬、胴はくびれて細めの馬、鞍上には佐藤哲三、後続には五馬身、六馬身、七馬身の差をつけて、後ろの馬たちが、中には大外にまで広がって鼻息荒く殺到してくる、その先のただ一頭、「今さら気づいても遅いんだよバカヤロォ」と内ラチいっぱいに逃げ込みをはかる黒い馬、けれど府中の直線は途方もなく長く、坂の傾斜は絶望的、それでも内ラチいっぱいに逃げ込まなければならないのです、ゴールまで。
 その馬は勝ちますか?
 その馬は勝つかどうかはわかりません。ただ、それのみが、ただそれのみが、雨が太陽に勝つ方法、夜が昼に勝つ方法、闇が光に勝つ方法、冷たさがあたたかさに勝つ方法、ただそれのみが、弱者が強者に勝つための、たった一つのやり方なのです。たとえ太陽そのものの何かが飛んでくることがわかっていても、内ラチ一頭分の一本道を逃げ切ろうとしなければならない、逃げ切らなければならないのです。それは往々にして打ちくだかれるとわかっていて、私は冷たい雨の日が好きなのです。