『殯の森』/監督:河瀬直美

殯の森 [DVD]
 僕にはすごく傲慢で自信家なところがあって、「僕が能動的にえらんでわざわざお金と時間を割いて鑑賞する作品が悪いはずがない」という思い込みのもとで、おおよその本を読んだり映画をみたりする。お金はないし時間の使いかたもへたくそなので、そうでなくては困るのだ。
 という書き出しから推測するに僕は『殯の森』にネガティブな、めずらしくネガティブな判断を下そうとしているようだが、果たしてどうだろうか。そうと言い切れるのだろうか。見終えたあとは、なんとなくいい感じの映画をみたような気になったはずだ。だけれども、「一番よかったシーンは?」、「一番よかった小物(オブジェ)は?」と、だいたい映画をみたあとに考えることを考えてみると、あれ、どうだろうかという気になったのもたしかなことだ。そして、またDVDを一から飛ばしつつみていって、やっぱりこのたき火のシーンの主人公のタンクトップ、そしてそれを脱ぐところはとてもエロくていいというところに行きつくわけだけれど、かといってどうもそのシーンは浮いている感があって、単に自分が形のいいおっぱいに反応しているだけの可能性は否めないのである。
 でも、たとえば、いきなり倒木が倒れるシーンがあって、あれはもうホラー映画をみたときのようにビクッとなったし、ほかには、えーと、冒頭のドキュメンタリ風のグループホームのようすとか、坊主の説教とかは、なんとなく幽玄のところもあって、このままソクーロフみてえになっていくのかとか思ったりしたけど、しかし、しかしなのだ。なんだかうまく説明できるほどの能はないけれども、必要なところが足りなくて、不要なつけたし、なくてもいいような安っぽい演出が多いような、それでそうとうに魅力的な(じっさい見た目には非常に魅力的な)風景、土台をいかせていないとか、そんなエラソーな感想を抱かざるをえないのだった。オリエンタリズムで西洋人を唸らせるなら、キム・ギドクくらいのけれんと力業でいってほしいし、そうでないと東洋の僕はつまらない。
 というわけで、いいエンジンとタイヤはあるのに、ギアが噛み合ってないというような(うまくすかされた、という気もしないような)、そんなもどかしさがあったと思うのだった。じっさい、エンジンかタイヤかをたしかめるためには、もう一作くらいいってみなければならないのかもしれないけれど、とりあえずそれはいつかの偶然を待つことにしようと思う。つまりはそういうこと。