『ラスト・キング・オブ・スコットランド』/監督:ケヴィン・マクドナルド

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 『ホテル・ルワンダ』を観たのに続いて、アフリカブーム到来の冬。原作の『スコットランドの黒い王様』については、実家の本棚にあって、父から「おもしろいから読め」と言われたように思う。“人食い大統領アミン”についても、いくらか話は聞いたと思う。この表紙は覚えている。
スコットランドの黒い王様 (新潮クレスト・ブックス)
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 さて、見始めてしばらくすると、もうアミン(役)にメロメロになる。「この役が賞をもらえないことはないだろう」と確信する。実際そうだった。素人が見てもそう思える代物。独裁者、暴君たるものの、魅力、狂気、孤独、迫力を演じきっている。これはもう、アミン一人を超えて、歴史上の独裁者や暴君を体現しているように思える。たとえば、董卓の役とかやらせたっていいんじゃないだろうか。
 で、アミンにメロメロになる反面、主人公のヤリチン白人医師にはなかなか感情移入できないところがある。まだ若く、なにも知らない彼にどれだけの罪と過ちがあるのかといえば、そんなに大きくもない、少なくとも大虐殺を指示した人間に比べたらないはずなのに、「しょーもねーなー、こいつは」という気になってくるのは確か。もちろん、父との関係についての葛藤や、「スコットランド人」というところのメンタリティなど、なにも背負ってないわけではないのだけれど。ただ、あのアミンの側に普通に正義感に燃えるような人間を置くより、こちらの方がよかったのではないかとも思う。
 それでまあ、だいたいなんとなくアミンよりに観てしまう、と。でも、制作者もそれくらいお見通しなのだろう。そこで最後に二発ほどでかいしっぺ返しを用意する。一つはグロ注意、もう一つは『勇午』注意(このタイトルものすごいひさびさに思い出した)という代物。虐殺写真も出てくるが、この二発で、どうにかバランスを取ろうとするような、そんな働きがある。主人公に対して、観る側に対して。
 ただ、それですっきりするところがない。当然だ。「アミンは悪者だった」という感想で終われる人などおらないだろう。たとえば、このストーリーの中で、あるいは一番良識的なところにいたのが、一番つまらなそうな白人野郎の外交官であるとか(いや、一番は現場の医師たちかな?)、そういうところだ。はっきりいってアフリカの歴史にそれほど詳しいわけではないけれども、望まずして西洋社会のひどいところに組み込まれてしまい、それに左右され、操られ、一方で生産力に見合わぬ人口増(人が死ななくなった、子供が生まれるようになった、というのはいいことでもあるのかもしれないが)や、それによる衝突や飢餓にも苦しめられる現実。たぶん、アミンのころからあんまり変わっていない。中国などという新しいプレイヤーも参入しているし、日本の支援がどこか別のアミンを肥え太らせたような可能性だってある。どうしていいかわからん。
 そんなわけでまたアフリカ(を題材にした)映画を観ようと思うが……『ツォツィ』(asin:B000TILW8C)あたりか。いや、暗くないアフリカ(を題材にした)映画ってないのだろうか?

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関連______________________

【12月14日 AFP】アフリカ東部の国、ウガンダのヨウェリ・カグタ・ムセベニ(Yoweri Kaguta Museveni)大統領が声明で「貧困のまん延するアフリカ大陸を、先進国にこれ以上支配させないよう、アフリカ人はもっと働かなければならない」との考えを述べた。

「先進国支配逃れるにはアフリカ人はもっと働け」、ウガンダ大統領 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

 「その通りだ、働け!」というのはいささか酷のように思える。が、かといって究極的にはアフリカ人自身の手でどうにかしないことにはどうにもならないようにも思える。しかし、その場合の「アフリカ人」がどのあたりなのかというあたりから決めねばならんのかもしれない。真にアフリカ人としてのアイデンティティを共有できるのか、それぞれ現在の国なのか、それとも人種や部族の単位なのか。ルワンダで言えば、ベルギー人が適当に決めた人種などという話も出てきて、このあたり何もかも快刀乱麻というわけにはいかんのだろう。

 ……しかし、アミンって最近まで生きていたのだな。自分の中では、ナセルとかダヤンとかの時代の人だ。錯誤だ。ところで、「あみん」の由来を辿るとこのアミンだというのにクラッと来た。