『レッドクリフ』Part I

 もうそろそろ公開も終わりの方だろうか? 先週の土曜、ジャックモールの方の映画館にて。三国志映画、赤壁映画である。人に誘われて行くことになったのである。その人は三国志のことはよく知らない。自分があげた横山光輝三国志全60巻(+おもしろゼミナール+事典)のうち、第5巻くらいまで読んだというだけである。
 一方で私は、全国の男子平均くらいの三国志知識は有しているつもりだ。横山光輝三国志全60巻(+おもしろゼミナール+事典)を皮切りに、人生に費やした時間の円グラフを描いたさい、ひょっとしたら「その他」に分類されないくらい光栄の三國志シリーズに時間を費やしてきたもしれず、分厚い人名事典や、小説やムックなどにもいくらか金と時間をかけてきたはずだ。なので、薄っぺらい三国志ミーハーファンであるというくらいは名乗っていいと思う。

 というわけで、できれば三国志世界に引きずり込みたいところもあるが、少し詳しい話などをして引かれても困る、というさじ加減が求められるところなのである。難しい戦だ。「胡車児や胡赤児ってのはやっぱり西域系の胡人なんですかね?」だの、「知ってます? 唐招提寺作った鑑真の俗姓って“淳于”なんですよ。酒をかっくらっていたら糧秣焼かれてとっ捕まって、曹操に鼻とか削がれた淳于瓊と関係あるんですかね? ……などと言ったところでらちは開かないのである。どん詰まりもいいところだ。「エンドロール見たら、曹操陣営にも名前設定されてましたね。荀攸と程いく。やっぱり郭嘉がいれば違ったんでしょうかね? 賈くはどうしてたんでしょうね?」くらいにするのが吉か。ちなみに、隣のカップルの男の方は、終了と同時に「中村獅童の役の甘興は“甘寧”という武将がモデルなんだけどね……」などと一席打ち始めていて、私の脳内でも「甘寧一番乗り!」の台詞と共に鉄球が回り始めた次第である。ブーンブーン。まあ、俺の三国志のベースというか究極は、あくまで横山光輝だな、うん。あと、夏侯雋って正史の人か何かかと思ったら、夏侯惇モデルの人だった。
 ……映画『レッドクリフ』の話だった。金城武が思ったより悪くないというか、よかったのでよかったと思った。あまり金城武は知らないので、少し心配していたのだ。あと、敵陣に突っ込んで肉弾戦する美周郎に笑った。それと、魯粛はいかにも魯粛という感じでよかった。やはりああいうイメージなのだ。三国志の映画化というより、コーエーの三国無双の映画化かい? というようなシーンも。八卦の陣のあたり、少し冗長に感じた。周瑜と小蕎の絡みのシーンはエロくてたいへんよかった。孫権ピエール瀧にしか見えないという話をどこかで見かけたが、まさにその通りで笑った。すごくかっこいい。長坂坡の戦いでは、張飛の見せ場がなかったのが残念。あと、劉備の阿斗投げ捨てエピソードはなかったな。だいたい、三顧の礼のときに張飛が火をつけようとしたから諸葛亮が仲間になった、というのと、投げ捨てのときに頭を打って劉禅は馬鹿になってしまったというのは、三国志知らない人にも、映画を観たあとなら通じるかもしれない。たぶん。
 いや、通じないだろうか。ああ、もう、この映画が終了すると同時に、俺のような薄い三国志ファンが薄い知識をぺらぺらしゃべりだし、だいたい興味のない女の「ふーん、そうなんだ」という相づちとともに、こう、左の耳から入って右の耳に抜けていって、日本上空に「甘寧」とか「苦肉の策」だとか「呉下の阿蒙」だとか、そんな単語がふわふわ集まったんじゃねえかと思う。それで今、こう、この異常気象なんだよ。たぶん、孔明が風を吹かせたときも、似たようなことをしたんじゃないかと思う。それではパート2で。

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