『サーフ ブンガク カマクラ』アジアン・カンフー・ジェネレーション

サーフ ブンガク カマクラ

サーフ ブンガク カマクラ

 アジカンの『サーフ ブンガク カマクラ』はすばらしい。俺はあんまり誉める言葉を知らないし、音楽を語るための単語も知らない。でも、そう思った。
 その思い、もちろん、当然、言うまでもなく、俺の「鎌倉」に対するトポフィリアと無縁なはずがない。四半世紀近く過ごした街だ。このアルバムの楽曲はすべて江ノ電の駅名が冠されている。曲順もその通りで、「藤沢ルーザー」にはじまり「鎌倉グッドバイ」に終わる(全部の駅を網羅しているわけではない。石上とか無理だろう)。
 俺はといえば、湘南モノレール沿線の人間であるけれども、江ノ電と無縁であるはずがあろうか。腰越小学校に通い、腰越か江の島の駅から藤沢にミニ四駆を買いに行ったことだって、一度や二度ではない。腰越の路面電車部分、レールの溝に自転車のタイヤがはまって死ぬような思いをしたこともある。
 そのせいもあるのかどうかわからないが、このアルバムに心から酔えるのは、「藤沢ルーザー」、「鵠沼サーフ」、「江ノ島エスカー」、「腰越クライベイビー」までの四曲。この展開はすばらしすぎる。こういっちゃなんだが、この打線は四番までだぜ、というくらい、というくらいはまった。
 「藤沢ルーザー」の歌詞、「社会人/ライナー/三番線のホームから/今 手を振るよ」。この三番線は当然JRの三番線、上りホーム。こっから手を振って分かれて江ノ電に乗るのだ。そして鵠沼を経て江ノ島、この「江ノ島エスカー」は名曲。もしもこの曲と出会ったのが中学生のころだったりしたら、青春の音楽(もちろん聴くだけ)をアジカンに捧げたことだろうと思う。「波音の彼方に響く声/揺れるエスカー/潮溜まり 逃げ込んだ/波のように消える いつか」エスカーはあんまり揺れないように思うから、これは心が揺れているのか? 記憶が揺れているのか? 江ノ島の日溜まり、潮溜まり、思い浮かぶ。岩場に逃げ込むカニが思い浮かぶ。そして最後に「腰越クライベイビー」。「腰上まで君は波に浸かって/仰向けで浮かぶブイの遊泳/ズブ濡れで僕も泣いてしまって/涙目で滲む昧の浜」、「昧の浜」の意味はよくわからないけれど、あのくそったれ汚い海も、ずいぶんよいものに思えるじゃねえの、まったく。ああ、夜明けに感じた海の気配……!
 というわけで、これにはずいぶんやられた、という気がする。ああ、グッバイ鎌倉。
 と、実はアジカン……と略称を用いるのがすこし恥ずかしいくらい、まだこのバンドのことはよく知らない。どこかでこのアルバムの記事を読み、メンバーがここらあたりの人だと知り、興味が湧いたのだ。いや、実のところ映画『鉄コン筋クリート』の主題歌だとか、まあそれ以前に、売れている人気バンドなのだから知らないはずもなく、「いつか」と思っていたのは確か。その機会が今回だった。いや、正確には、予習じゃないけれども、二枚ほど先にアルバムをゲットしていて、それについては項をあらためる。

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