BIのせかい、あたらしきむら、ゆめのくに、うつくしいひび

 おれはこのところ、BIの世界をおもいうかべるのがすきだ。「宝くじの一等賞があたったら?」という妄想なんてものよりも、ずっとすばらしい。すばらしすぎるBIの世界。「ベーシック・インカム」。そうとなえるだけで、おれはフェアリーランドに行けるんだ。ドリームランドに行けるんだ。もやもやもやってあたまのうえに雲が出てきて、おれはもうゆめの中にいるんだ。そんなやつが、カート・ヴォネガットの『チャンピオンたちの朝食』に出てきたと思うけど、それがベーシック・インカムの世界だ。おれの、おれだけの、おれのためだけのBIの世界だ。おれはまったくあほになってしまったようだが、もとからあほなんだ。

結論から言ったら、人間というのは、やっぱり二四時間遊んで暮らせてね、それで好きなことやって好きなとこ行って、というのが理想なんだと、僕は思うんだけど。

2008-09-25 - 関内関外日記(跡地)

 吉本隆明がこんなことを言おうが言うまいが、ともかく、おれはともかく、はたらきたくないんだ。「学校で勉強したり、仕事をしない生活も、つらいもんだよ?」……なんてことばには耳をかさないぞ。俺は、だって、ひきこもりだったんだもの、ニートだったんだもの。一生続けるわけにはいかないから、ここでこうやっているけれども、もしも続くものならば、やっぱりああやって、あれこれしていても、ぜんぜんよかったんだ。やっぱり、それなんだよ、なにもしたくないんじゃない、なにもさせられたくないんだ。
 生きるためになにかさせられなきゃいけないなんてのは、生理的な、肉体的な部分でしかたないかもしれないけれども、もう、そんなのうんざりだ。労働なんてものに、道徳的な意味を持たせたり、倫理的な意味を持たせたり、宗教的な意味を持たせたり、そんなのを押しつけられたり、そんなおためごかしにはもううんざりだ。食うためにはたらくならば、はたらかなくて食えるならば、はたらきたくないんだ。おれは、その自由を肯定する。

こんな制度が導入されたら、貧困などよりよほどオドロオドロシイものを、私たちは見ることになると思うですよ。

http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20090211

 貧困よりおどろおどろしいものってなんなんだろう? 貧困がもたらす餓えは精神の、心のあらゆる餓えに直結する。栄養がまわらなきゃ、ろくなことなんてかんがえられない。ちょっくら私立小学校におしいって、秋葉原の歩行者天国行って、いっぱつかましてくる、そんなのが貧困のおどろおどろしさのひとつだ。そうじゃないという意見もあるとおもう。おれがほのめかした事件はそうじゃないのかもしれないが、たとえば、ありがちな泥棒や強盗や詐欺だって、やっぱり貧困が背景にあるんじゃねえの? 失業者と犯罪率の相関ってどうなのだっけ。

人は「お前は役に立たない」と言われると、実は経済的に困るとかいうことよりも大きく心を傷つけられる。と思う。つまり首にする方は「気楽に」首を切り始めるが、解雇される方は「首を切られても今よりは気楽」ってわけでもないだろう。なので、結構つらい世の中になりそうな気もする。

 だいたい、今は、「おまえが首になるとお前が経済的に困ることはわかっているけれども、お前は役に立たないから首だわ」っていう状態じゃねえの? 1+1は2じゃねえよ。どっちがけっこうつらいのか、おれには想像できてしまうのだけれども、どうだろうか。
 それで、もしも、たとえば、はたらかなくても食っていけるならば、やとわれる側だって、今とはちがうメンタリティで、やとう側に対して、ある意味、対等かそれ以上のもっとライトな、すごくライトでライトな、しぶしぶ働いている感から、あるていど解放された、積極性、ポジティブ、決してストレスフリーにはならないが、今ほどひどくない、そんな関係になれるんじゃないのか。
 まあ、はたらきたい人はそうやってはたらけばいいさ。おれ、BIの世界では、今の15万円ほどの価値をもらえるならば、ねっころがって正法眼蔵プロ野球選手名鑑やタカハシマコのまんが(おれはBLの世界も好きなのだぜ)を読んだり、一日中駅のホームで電車が行ったり来たりするのを見ていたり、イセザキモールの果てがどこにあるのか歩いてたしかめたり、港でずーっと舟の行き来を見ていたりするし、あるいは、一日中タイルに絵を描いてもいいと思う。



 しかし、たとえば、上のウシは、今年の年賀状に一枚だけ筆ペンで描いたものだけれど、こういうのならいい。一日中、白いタイルにポツポツ、ポツポツ、絵だかなんだかわからないものを打つような、そんなお仕事ならいい。ただ、ハローワークに行って、「一日中白いタイルにポツポツ点を打つ仕事がしたいです」と言ったところで、「あー、今年、北海道の方はアレが多いの?」とか答えるしかないだろう、麻生首相も。え、なんでハローワーク行くと麻生首相いんの?

仕事したくない始め - 関内関外日記(跡地)

 もしもおれの絵を気に入ってくれるひとがいて、おれにキャベツをくれたりすればうれしいと思うし、おれは一日中絵を描くだろう。でも、ときどきインターネットをやったり自転車がほしくなったりしたら、コンビニではたらくかもしれない。でも、はたらかなくたって食っていけるぜっておもいながらはたらくと思う、そんなおれは、たぶんいまのおれよりも、よくはたらけると思う。よく、健康的に、わらいながら、おれは絵を描いていたいし、おれはトマトをもらったりしたらうれしいとおもう。ときどきだれもよまない詩を書くかもしれないし、へたくそな歌をうたったり、おどりをおどったりするかもしれない。夜明けよりはやくおきるかもしれないし、日暮れよりはやく眠るかもしれない。おれははたらかなくてはいけないからはたらくのではなく、気がむいたらはたらくのだし、そのときおれはゆうしゅうなはたらき人かもしれない。すくなくとも今よりはけんこうで、けんぜんで、おれはたのしくなってしまって、おれは一日中、おだやかで、おだやかで、ベーシック・インカムのことなんか考えなくてもいいくらいしあわせで、だれかにうえきばちでそだてたハーブをあげるかもしれないし、小麦粉をもらったりすればうれしいと思う。一日中、ねこのあとをおってふらふらと歩いていって、つかれたら眠ってしまうかもしれない。もう、眠ってしまっても、ベーシックインカムの夢なんてみなくていいんだ。おれはもう、おれじしんがベーシック・インカムとみわけがつかなくなってしまって、おれはかぎりなく自由で、せかいそのもののような気分になって、もう、時計もカレンダーもいらないのだし、おれはほんとうによかった、こうなってよかった、せかいにかんしゃしたい、ありがとう、ありがとう、そう思って、今このときも、もうおれは、ありがとう、ありがとう、そう思っているのだ。ありがとう、ありがとう。

関連______________________

働くことがイヤな人のための本 (新潮文庫)
まっかなおとこのこ。 (GUSH COMIC BUNKO)