ぼくは啓蟄を告発する

 FMラジオのおしゃれ女性DJが「啓蟄」と言ったので、ぼくは興奮したのです。ぼくは変態だ、とんでもない変態野郎だ。だけど、言葉にだって責任はあるんだ。ぼくには「啓蟄」を告発する権利がある。変態を代弁する義務がある。
 「啓」はいい、「啓」は不起訴だ、言葉の裁判長。だけど、「蟄」だ。「ちつ」だなんて、この日本語の中に、ほかにどんな言葉があるんだ。もう一つくらいしかないんじゃないのか、それは「膣」だ、「膣」だけなんだ。言葉の裁判長、ぼくは無罪だ。ぼくは一方的に、ちつをおしつけられ、辱められた、この辱めに合理性なんてないんだ。ぼくは、無謬の子供だ、無罪の紳士だ! 
 ……しかし、蟄弁護士は「ちつ」を弁護する。政治化された言語、合理性の言語。そんなものを振りかざす。

ちつ 【▼帙】
1(名)和本などの書物を保存するために包む覆い。厚紙を芯(しん)にして、丈夫な布や紙を貼りつけたもの。
2(接尾)助数詞。書物を1 に入れ、それを単位として数えるのに用いる。

http://dic.yahoo.co.jp/dsearch?p=%E3%81%A1%E3%81%A4&enc=UTF-8&stype=0&dtype=0&dname=0ss

 あがなえるか、あがなえませぬ。こんな証拠が提出されるとは……。「帙 (ちつ)を繙(ひもと)・く」「秋の夜長に―・く」、ちつをひもとく。秋の夜長に膣をひもとく。夜長に、夜、長く、秋。ひもといて、くぱぁって。ちつがひもとかれる。覆い、そして芯。くさかんむりのこころ。丈夫な布。ひもとかれる、覆いかくされたもの。夜長に、夜長に、布ははがされる……!


    拝啓 お母さん。
      秋の夜長にちつをひもとく毎日です。
       昨夜一ちつ、今夜一ちつ。
                明日も一ちつひもとくでしょう。
    敬具
      平成廿一年三月五日
               啓蟄太郎
 
 馬鹿な、ぼくの膣から虫が這い出てくる。春の大気と膣化物。春よ、花よ。社会と膣序。判決、膣居二十五年の刑に処す。護送車と膣素。春らんまんの川べりの、お花畑に蝶々が。ああ、だから、ぼくは、ぼくは……!