校則と私の思い出〜あるいは私はなぜ茶髪ピアスになったのか〜

 俺は法とか社会とか思想とかの学がないので、こういうのを読んだら、とにかく自分の過去の体験とつきあわせるしかない。その上で、今、自分がどう思おうとしたかをみきわめるしかないように思える。

小学校まで

 幼稚園のころ……。幼稚園に"園則"みたいなものがあったろうか。覚えていない。整列するとか、先生がしゃべってるときは黙るとか、そういう基本ルールは、このあたりから仕込まれたんだろう。ひょっとすると、そのあたりに教育や近代社会というものの根っこがあるかもしらんが、俺は感覚をさかのぼるだけだ。ちょっと校則という感覚はなかった。
 小学校のころ……。うーん、校則って小学校にあるのだっけな。よく覚えていない。ただ、同じクラスでタバコを吸ったやつがいて、反省文を書かされていたと思う。でもなんだ、今で言うところの学級崩壊的なことはいっさいなくて、むしろ俺にはその現場が想像できない、というのが正直なところ。

中学・高校

 中学校・高校のころ……。俺は、私学の中高一貫男子校に入ったから、これは一緒くたになる。そして、たとえば公立中学における校則とは? という話には入っていけない部分。というのも、教師側が曰く「うちは私学で、お前らはわざわざ地元の公立行かないで、親が金払ってまでここに来てるんだ。だから、うちは茶髪もバイクもやるなとは言わない。やったら、じゃあ公立に行ってねというだけだ」……てな具合だった。教師がそういう指導に時間が取られるのでは、ほかの生徒の指導ができず不公平だとかなんだとか。
 で、だいたい三流私学程度とはいえ、一貫校に入るようなひねたガキ、「まあそりゃそうだわな」というあたりに落ちつく。中途公立行きは地獄みてえな、そんな意識もあった(俺の中には公立中学へのある程度の偏見があることを認めなくてはいけない。地元の学校の評判が悪かったので)。てなわけで、比較的、というか、たぶん公立よりずいぶんと自由だったかもしれない。自由だったかもしれないが、たとえば、わざわざ茶髪にして教師に逆らうやつはいなかった。教育熱心な親の意向だとか、そういうものもあるんだろうけれど、ある程度「自分の意思でここに来ている、ここに居たい」という、ちっぽけな自尊心、自負があったように思う。

学校に来る理由って?

 ここのところに、なんかあるだろか。たとえば件の女子生徒が「なぜ茶髪がいけないのか?」と考える以前に、「なぜ学校になんか来て、集団生活しなきゃいけないのか?」という、そこにひっかかりがあって、その答えを見つけられないのではないか。「なんかルール守るといいことあるのか?」って、そこんところで、うまいことなんか答えがねえと、どうも説得以前の行き違いというか、「ルールだから論」では届かないところがあるように思える。
 で、なんの「いいこと」があんの? よくわかんねえや。
 ただ、ずいぶん前に、ネットで「茶髪、ピアスにすると将来の年収がスゲエ違う」って、どっかの先生だかの論(論拠がどんなもんだかわからんが)があって、まあそういう情報を与えて、そのうえでてめえで判断しろってのが現実的だろうか。でもさ、「別に年収高くなくてもいいし、真面目に生きていった人間も、この不況であの有様じゃん」とか、「茶髪をやめさせるため」という目的からすれば、あんまり有効じゃねえかも。だいたい、髪黒ければどうにかなる世の中じゃねえし。

できることなら家で寝てたい魂

 話が逸れたな。まあ、「いいことなんかないよ! 理不尽と戦おう」とも言えないわ、俺。俺は正直言って、「反抗するのもかったるい」という人間だったからだ。今でもそうだ。もしも中学時代、高校時代に、同級生の誰かが「理不尽な校則には反対しよう!」とか呼び掛けても、「かったりー、とっととゲーセン行ってスト2やりてー」とか、そうとしか思えない人間だった。たぶん、自分のつるんでる連中もそうだったと思う。

 ……って、学校帰りにゲーセン寄るのも校則違反なんだよね。何が「自分の意思でここに来ている、ここに居たい」だ。聞いて呆れる。じっさい、大船のゲーセン(ホームラン、ラッキー、ニューヨーク?)に入るところを見とがめられて、説教食らったこともある。あるけれども、まあやめられないね、ゲーセン通い。格闘ゲーム流行ってたんだ。まあいいや。
 なんだろうね、これ小狡いね。「茶髪なんて目に見える反抗するやつは馬鹿だ」という思いがある一方で、「見つからなきゃいいじゃねえの」って。ダブスタというかなんというか。まあ、むしろ、「ルールなんて適度に破りゃいいだろ」っていうワンスタンダード。
 我ながら、そこに正義や正論はねえなって思う。ものすごい俺の本音であり、そのようにありたいという実感でありながら、たとえば「ルールはルール派」の人にも「理不尽なルールの奴隷になるな」という人にも訴えかけられないというか、しょうもねえよな、と。
 もちろん、このあたり、俺がある種めぐまれているとも言える。なぜならば、適度に破ったり、小狡く立ち回ったりすることができるくらいの条件にあって、なおかつそれで平気な魂しか持っていない、ということだ。魂というか、ハートというか、正義心というか、なんといってわからんが、そのあたりだ。それで、そういった「隠れてやればいいのに、馬鹿だね」という、ある意味小市民的な? モラル観みてえなものは、心ある人、あるいはある種のマイノリティにとっては、おそらくえらい圧力というか、暴力になりかねない、とは思う。
 ……思うが、俺はやっぱりだめだな。怠惰がいい。面従腹背っつーか、背くほどの度胸もないから、ちょっと横向くというか。でも、痛いのとか、怖いのとか、恥かいたりするのはいやだから、そっちが大きいとなれば進んで奴隷にもなるさ。まあ、そういうわけで、魂の、ハートの問題で、俺はどうもこの問題に立ち入れない。ただ、一応、こういう奴がいる、ということを提出しておくのでした。
 あと、中高生に向けた個人的なアドバイスいえば、別に中学高校で染めたりピアス穴開けなくても、俺みたいにニートになってから髪染めて、ろくでもないところで働き始めてからピアス穴開けても十分間に合うよ、って言いたい。表向き真面目に生きて、裏で楽しみゃいいんだよ。俺には無理だったけどね。おしまい。

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