暁に響け男の挽歌

 夜の伊勢佐木町、ヤクザが不二家のガラスを割ってペコちゃんをかどわかすところにでくわす。小さなおっさんのヤクザと、柔道の重量級みたいな若いヤクザ。とっさのことなので、「おい、ヤクザ、なんでペコちゃんなんだ」と口走ると、大きなヤクザ、すごんで俺に向いていう、「関係ないでしょう」。そうかもしれない。そういえば、こないだの日曜日、山手駅の前で、右手の小指と薬指に包帯をぐるぐる巻きにしたおっさんが、見るからにヤクザというようなヤクザに何やら頭をさげてぺこぺこしていたのだけれども、あれはいったいなんだったのだろうか、向かいの交番は無人だった。「僕も愛されたい」。と、「そこまでだ!」と嘘っぽいがに股で脇道から出てきた大柄の男、警官風の身なりは警官にも見えず、嘘の顔をした香取慎吾だった。ああ、香取君、君か。俺もヤクザも同情的な顔になって、香取はさらにエンジンを空ぶかしして、「こち亀でいいじゃん!」と動き出した。踊りなどと呼べるものではなかった。止まるまで動くあわれな機械人形のようだった。自分の身体をそんな風に扱える人間の、その感情をどう受け止めていいかわからないでいると、小さなヤクザがズボンを脱いでペコちゃんに抱きついてる。腰を動かしはじめる。「おい」と俺がいうと、大きなヤクザはどこかに行ってしまった。ああ、ペコちゃん、ペコちゃんの淫靡な舌、絡みついて、甘くとろける、ツインテール、トリプルテール、クアッドループルテール、クインチュープルテール、セクスチュープルテール、セプタプルテール、オクタプルテール、ノナプルテール、ディカプルテール。そんなにテールを生やすんじゃない、生やすものではない。倍々ゲームだ。地球が滅ぶ青天井ルール。そろそろまぜろよ。ああ、まぜてもらおうじゃないか。かきまぜるんだ。くちゅくちゅになるまでかきまぜろ、セックス、チュー、セックス、チュー、セックス中、赤ランプ。麻酔薬なしで切り刻まれるペコちゃん、中から玉のような赤子出でて、ご来光、寂光、夕暮れのイセザキモール、客もなくパントマイマー。俺はタイオガのツインテールのきしみを尻に感じながら、右のペタルを踏み込んで滑り、左のペタルを踏み込んで滑り、暁の大岡川、夜明けのホスト、の捨てた煙草、の吸い殻、目で追って、ケンタッキーおじさんもペコちゃんも、ペコちゃんもケンタッキーおじさんも、椅子に固定されて動けぬドナルドも(幼児性愛者だから罰を受けているのだ)、自由に、泳ぐように、ずっと東の空へ飛んでいったんだとさ。