年収が一千万超えてるようなやつを、石とか棍棒とか金属バットでぶん殴っても無罪みたいなことになればいいのに。
でも、そうしたら、きっと高収入を元手に、けっこう頑丈な甲冑を着込んだりする。中世の騎士、黄金の騎士、人生は戦いなり。そうするとやっぱり高収入だし、強いし、さらにモテたりするから卑怯だ。格差は広がる。これではよくない。
ただ、長所は同時に短所にもなる。そこ大事。やっぱり頑丈な甲冑は重いし、動きもにぶい。前方の視界とかもあんまりよくない。そこに勝機を見出すべき。
たとえば、川辺とかに誘い込んだら俄然有利。うまく川に落とせばいい。これは沈む、間違いなく沈むね。重機とかで引き上げて、それで財布とかとればいいし、案外金持ちとかもちょろい。
でも、いつまでも重さばかりで押してくる連中じゃない。なかには賢い個体とかもいて、軽くて丈夫な素材とかを採用する。藤甲とか。こうなるとかなりまずい。川辺に誘い込んだら向こうはスイスイ逃げ去ってしまう。ますますモテる。
とはいえ、俺も南蛮の知恵者だし、火攻めくらいはするべきだと思う。でも、そのためには、まず鋼の甲冑を完全にたたきのめして、藤甲への転換を図らせなければならないし、さらには川辺に誘い込む算段も立てなければいけない。川辺になんの用があるのか。
やっぱり、蛍だと思う。金持ちはエコとかロハスだし、美人の愛人と浴衣で蛍見物したりするんだろう。愛車はフェラーリとかだし。フェラーリってのは、すごく高いし、速い。俺はよく、フェラーリのオープンカーとか見ると、なんかの具合で運転手の首がもげたりすればいいのにとか思うんだけど、あんまりそういうのを見たことがない。
でも、たぶんフェラーリ乗ってるようなやつは、首とかもげても平気っぽい。なにせフェラーリだ。フェラーリの背景にある生活というか、インテリアとかセックスとか考えたら、たぶん首くらいならもげても平気。あんまり気にしない。金ならうなるほどあるし、笑って済ます。性格もいいんだと思うね。なんというのか、余裕がある。にじみ出る余裕だ。
でも、俺はそれを許さないし、そこで見逃してはいけないと思う。優しさが罪になることもある。だから、徹底的に殲滅しなくてはならない。ソヴェート・ロシアでは、優しさが罪になる。
ソヴェートでは。
暗い室内、暖炉の中で薪が小さく爆ぜる。
席の向かいにベリヤがいて、ニヤニヤ笑いながら粛清のことを考えている。
俺は電気ブランをあおる。チェイサーにビールを流し込む。心臓が動き始める。
ちょっとベリヤを見る、ベリヤは目をそらして肩をすくめる。
俺は革命のことを考える。いつの間にか眠ってしまう。
目を覚ませばすべての世界は新しく、
それでも僕はまた手に金属バットをもって、
あの黄金の騎士をたたきのめしに行く。
何度でも、何度でも。