こすりつけ猫グレンモーレンジ

 駅に向かう細い路地、それに面した家の門柱の陰でこちらをうかがってるやつがいる。間抜けそうな人間がずったらずったら歩いてくると、まよわず姿をあらわすのだ。

 まよわず姿をあらわすと、しゅるしゅるっと、足に体をこすりつける。ねらわれたほうの人間はたいてい間抜けなのでされるがままである。

 こすりつけに熱心で、間抜けな人間が頭を撫でてもよろこぶ風でもない。のども鳴らさない。熱心になるあまり、足にとつげきしたまま通りすぎて、反対側のガードレールのポールにこすりつけをすることもある。
 間抜けな人間のほうが、「もう終わりだろうか」と、とっとっと、と三歩ばかり進むと、気づいたあいつも、とととっと追いかけてきて、またこすりつけはじめる。人間の方はなにぶん間抜けなので、ポケーっとそれを見ていたりする。
 とはいえ、いくら間抜けなものといえども、人間にはたぶんに用事というものもある。猫にこすりつけられながら半日ないし一日をすごすというのには、生半可なはなしではないのである。

 それで、人間のほうは不意にとととととっと歩きはじめる。はじめはとととととついてくるのだけれども、ある地点でピタっと追跡をやめてしまう。

 ところでおれは、おまえにグレンモーレンジという名前を勝手につけたのだけれども。

 にゃあ。