この世の終わりの一匹の犬(わたしの帝国、わたしの城)



 埋め立て地、埠頭、港、コンテナ、釣り人、わたしの世界。

 わたしの愛してやまない世界。

 わたしの帝国。



 わたしの世界の塔は高すぎない。しかし、わたしを怯えさせるには十分だ。


 わたしの帝国は眺望する。

 海に近い場所に生える植物。

 構造体。

 向こうになにかの生き物がいる。


 あるいは一匹の犬である。
 わたしは、鎖につながれていない犬というものを初めて見た。

 犬が自由でいるのを初めて見た。
 わたしは犬が嫌いだった。
 伸びをする犬を見て、少し好きになった。

 生物と生物がこの距離にあって、ここまで無関心でいられるのはすばらしい。
 おまえはどこから来たのか。
 コンテナにまじって遠い海の向こうから来たのか。
 お前は顔を白くぬられたのか。
 お前は白い犬なのに、黒い衣をまとっているのか。
 お前は“東京湾最後の野犬”有明フェリータを知っているか。

 さようなら、異なるもの。

 わたしの帝国、わたしの世界。
 わたしの城には郵便受けもあるので、ぜひ手紙を書いてほしい。
 気が向いたら読むこともあるだろう。