タイニーナイトメア

 冬の朝の話だ。アイフォーンのアラームが鳴って、上半身だけ起こす。そのまままたまどろみのなかに落ちていく。一分も経たないその間に、夢を見る。極小の時間、そのつかのま、夢を見る。場面がある、人がいる、言葉もある。あるいは、言葉だけ聞こえる。職場で強烈な眠気におそわれる。席を離れて壁に寄りかかって目を綴じる。やはりその刹那、話し声が聞こえる、どこかのビジョンがあって、やはり俺は夢を見る。前提もなにもなく、放り込まれて、すっと消え去る。一瞬のことだが、そこはよくできている。声が聞こえる。話し声が聞こえる。混線の電話のよう。雑踏のよう。光景が、場面が完成して、それも一瞬で消え去る。
 極小時間の夢。この世で発せられたあらゆる情報は、放射線ニュートリノのようにこの世界を飛び回っている。それが、こちらの眠りで無防備になったところを通り過ぎる。俺は霧箱になって痕跡を見る。あるいは、俺が見聞きしたあらゆる情報は、放射線ニュートリノのように脳内を飛び回っていて、それが、こちらの眠りで無防備になったところを通り過ぎる。俺はカミオカンデになってそれを見る。極小の夢魔、情報はこの世を覆い尽くしている。声が聞こえる。あらゆる人類の、話し声。