劇場版『イヴの時間』を見てのこと

「イヴの時間 劇場版」 [Blu-ray]  おれは世間全般のなかで見ればインターネットにいくらか詳しいほうの人間に分類されるだろうが、まったく知らない分野というのもあって、そのひとつがニコニコ動画に代表されるような動画コミュニケーション系だ。理由はいくつかあって、そもそもおれは自宅にパソコンをもっておらず、会社のMacintoshでさぼりながらネットをうろつくのはいいが(いいのか?)、さすがに動画を見たりはできないということだ。だからおれがいくら初音ミクが好きだといっても、それはCD化された音源からの音であり、また『イヴの時間』がどこかで配信されてたものの再構成だということも知らなかったわけである。 
 そんなわけで、出自を知らんので一本の作品を観るぞというスタンスでのぞんでいたために多少の齟齬はあったといえる。もとよりあるスペースを舞台にしたいろいろの短いストーリーなのである。一本のストーリーではあるが、一本のストーリー的なそれではないのだ。だから、おもしろいのだけれども、流れを断ち切るかのようないくつかの笑いどころのようなものについての印象も、やはりショートで見ればさらによかったようにも思える。旧式ロボットが店を訪れるシーンはそうとうによかった。
 まあともかく、舞台は日本っぽい近未来である。人間そっくりのアンドロイドが使役されているわけである。一方で、機械が人間の姿形をしていること、ときに人間のように扱われることを嫌悪する空気もあるのである。そんななか、「この店ではアンドロイドと人間を区別しません」という喫茶店があって、そこが舞台なのである。
 犬に仏性はあるか、ロボットに心はあるか。どうも、この話の大前提として、「ある」ように描かれているとしかいいようがない。どのようにしてそれが生じたのか、というようなところに重点はないといっていい。アトムやドラえもんのように(いま、平気で『アトム』と打ってしまったが、おれはアトムをしっかり読んだり、見たりしたことはないのだった)、あるようにしてあるように描かれていると、俺にはそのように見えた。また、一方で、それならば人間とは、人とは、人のゴーストとは、自我とは、というところもとくに描かれていない。そのあたりはさっぱりしている。サイバーでもなければパンクという感じでもない。それはそれで悪くない。そちらに行くと、そういうものになってしまうし、そういうものを見飽きたとはいわないが、そうでないものもあってくれていいだろう。
 機械と人と、あるいは感情の交流とアニメというと、『RD 潜脳調査室』を思い出す。プロダクションI.G士郎正宗という代物なのだが、放送が終わってしばらくたった今あまり語られることのないような気がする作品である。あれに出てきた、ミナモの兄とホロンの関係というのはなかなかによかったように思う。あまり覚えていないが。
 あまり考えすぎてはいけないのだろうか。『RD』なども妙なところにダイヴしすぎていたようなところもある。あと、少し気になったのは、ちょっと凝ったカメラワーク(?)のところで、なにか不自然さがあったので、これはなにか機械の視点かとか勘ぐっていたが、どうもそうではなくといったところのよう。制作規模などもあるのだろう。
 いや、しかし、考えすぎてはいけないというか、たとえばこの瞬間と地続きであるリアルなこの世界でAドロイドやガイノイドがうろうろしはじめたとき、いったいどれだけの人間が「自我とはなにか」「心とはなにか」「犬に仏性はあるか」などと考えはじめるだろうか。むしろ、わりかしリアルにフラット、日常の中に入り込んでいて、「機械に欲情していいのは小学生までだよねー、キモーイ」くらいの話になるような気もする。またあるいはそれも過渡期だろうか。さて、いずれにせよSFの想像力が試される日がくるだろうが、またそうであってほしいものだ。

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