映画『スパイ・ゾルゲ』を見るのこと

スパイ・ゾルゲ [DVD]

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 実話を扱った映画なんかを見るときは、わりと見るがわの予備知識というものがいろいろと左右するもんだと思う。それでおれ、この『スパイ・ゾルゲ』というのを見ようと思ったのは、シュライヒャー一派だったけど、ヒトラーとの権力争いの結果、「おまえこのままじゃ粛清されんぞ」ってドイツ大使館駐在武官になったあと、駐日ドイツ特命全権大使なんかになってまんまとゾルゲに騙されるオイゲン・オットの話が、ハンス・マグヌス・エンツェンスベルガーの『がんこなハマーシュタイン』(『がんこなハマーシュタイン ヒトラーに屈しなかった将軍』を読む - 関内関外日記(跡地))に出てきたからで、「そういえばゾルゲとかいたな」とかいうのが理由であって。それで、この映画でオイゲン・オットを演じたウルリッヒ・ミューエという人が、東独のシュタージもの(?)の『善き人のためのソナタ』って、なんかタイトルは聞いたことがあるような映画の主演で有名らしく、この映画でのオットの最後のシーンのじっと見つめるところもなんかよかったので、こんど借りてみようと思う。おしまい。
 ……って、おしまいじゃなにか、いかんか。
 で、なんかよくわからないので申し訳ないが、キャリアの長くて有名な監督の構想十数年、予算何十億だかという映画らしく、詰め込みたいもの全部突っ込んだらすごく長くなった、みたいなもののようで、まあおれもそう思った。そして、どちらかというと五回くらいに分けてNHKで今やってる吉田茂のやつみたいなのでいいんじゃないかとか思った。
 まあしかし、素人が云々するもんじゃないとは思うんだけど、スパイものとしては、なんか「バレるか、バレないか」のハラハラみたいなもんが肝じゃねえかと思うんだよ。そういう意味では、なんかゾルゲと尾崎秀実とあれやこれや視点(?)があっちこっちいって、どうもさ。いや、もうゾルゲが捕まるのも歴史的ネタバレしてるわけなんだけど(たまに裏切る映画もあるけど)、それでもたとえば、追う側の方視点とかで、点と点をつなぎあわせて追い詰めていくとか、そんなんでもさ、ゾルゲなり尾崎なりを描けたんじゃねえのか。なんか散漫じゃねえのか。だから途中で一時停止して飯作って食って『平清盛』見てもあんまり気にならなかったんじゃねえかとか。
 しかし、まあ独ソ戦に少し興味持ち始め人間の視点で見ると、ゾルゲの決定打に近い報告をスターリン(あの顔はCG?)が握りつぶしたのはデカかったな、とか。いや、そうじゃないんだという説もあるらしくて、そのあたりはようわからんけど、まあ本国上司の労農赤軍参謀本部第4局長のボスの粛清とかも事実だし、でも、当時も今も二重スパイ説もあるみたいだし、なんややっぱり謎は多いか。
 ……って、なんかちょっとひとつすげえ気になってむかついたのは、この映画、外国人出演者の会話みんな英語なんだよ? なにそれ? ハリウッド? ソ連国内のソ連のやつ同士(同志?)だろうと、在日ナチスドイツの集まりだろうと。そこんところさ、やっぱりちょっとしたことかもしれねえけど、いや、ちょっとしたことじゃねえだろ、みてえな。
 そんでさ、なんかその、うーん、スパイ魂というか、思想というか、そういうところで、なんか燃えるところなかったっつーか、ロケ地の小学校はこないだ燃えてたみたいだけど、物足りないんだよなーって。なんかさ、「本国は自分たちを信用しているのか?」とかのジリジリ感とか、ゾルゲにとってメンターであるところのブハーリン粛清でちらっと反スターリン主義みたいなのが顔を出したりしつつ、べつに深く悩むでもなく。本木雅弘もなにかずっと泰然自若の悟った風で、もっと、こう、なんかないんかい! って。で、ラストのソ連崩壊とベルリンの壁崩壊映像にジョン・レノンもなんか一貫性ねえし。なんかこう、それでもゾルゲの信念で国際共産主義万歳! 言うなら、それでいいし、そこで突き通せみたいな。……って、そういうのはウケねえのか? つーか、そもそもなんかあんまり一般ウケしなさそうなら、そんくらいやっても、って余計なお世話か。まあ、そんなところで。

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……ここに紹介されてる記念碑(記念像?)はかっこいい。