映画『アイアン・スカイ』〜収容所送りほどおもしろくないわけでもないが〜


 おれがこの映画の存在を初めて知って書き留めたメモは以下のとおりである。

この設定でおもしろくなかったらミッテルバウ=ドーラ収容所送りな。

 というわけで、ここ2ヶ月くらいの独ソ戦趣味がはじまる以前にこんなこと書いていたくらい(wikipedia:ミッテルバウ=ドーラ強制収容所)で、「月の裏からナチスの残党が攻めてくる」なんて、素材としてはすげえいいじゃん、この時点でもう勝ち戦じゃないの? って印象を持ったわけ。で、それすなわち、自分の中での満足のハードルをクソ高くしちゃってるってことで、『キック・アス』や『宇宙人ポール』級みたいな謳い文句がちらっと目に入るたび、「それじゃあ『ギャラクシー・クエスト』くらいおもしろいわけか?」とか、膨らむ期待に反して、逆に不安になったりもしいので……。

 で、観てきたわけなんだけれども、自分の中の高くしすぎたハードルというか棒高跳びのポールを越えることはなかった。でも、ポールには当たって落ちたくらい。うーん、こんなもんか、というところ。
 いや、宇宙のナチス・ドイツ、そのメカなんかなんというのか、スチームパンクとでもいうのかそういう見た目は妥協ねえし、地球に住めないのを強いられているんだ!な、われわれ日本人にはおなじみのシチュエーションも描かれているしさ。宇宙用グラーフ・ツェッペリン型があの手段で地球攻撃するシーンとかすげえ見ものだし(宇宙戦艦ビスマルク、宇宙戦艦ティルピッツ、宇宙重巡プリンツ・オイゲンというのはなかった)、これは劇場のスクリーンに値するもんだな、とかね。
 そんでもさ、なんかこの、映画全体を通してぶち抜くようななにかが感じられなかった。圧倒的ななんかすげえ感。うまく表現できないが、ある意味、狂気のようなもの。いや、月のナチスのメカとかに、こだわりは感じられたけどさ。
 そう、ナチズムの様式をおちょくって、風刺してる一方で、地球側、とくにアメリカを風刺してんだけどさ、なんというか、はっきり言ってありきたりというか。かなり強烈な皮肉なのかもしれないが、なんというのか、いくらサラ・ペイリン的なものをあれこれ言ったところで、諦念じゃねえけど、それほどでもねえかというか。それで、各国も揶揄してみせるジョークも、そこらネットに転がってる民族ジョーク程度で……お茶を濁すといっては言い過ぎだろうけど、想定の範囲内というか。まあ、『博士の以上な愛情』と『ヒトラー 〜最期の12日間〜』くらいしかわかんなかったけど(こないだ見た『撃墜王 アフリカの星』を元ネタにしたパロディはなかったと思う。あ、主題歌いいなって思ってたらiTMSで売ってたわ)、もっといろんな映画知識、軍事知識あったらすげえ笑えるシーン多かったりしたのかもしらんが……。
 そう、手堅くまとまってるという印象。これ、勝ち戦を(……っていうほど、ナチスをこういう映画に使うのはすげえ難しいことだってのは……あるんだろうけれども、観客がそれをどこまで斟酌していいかわかんねえが)、手堅くまとめてしまったなっていう。なんというか、こんだったらパロディ元のストレンジラヴ博士一人の方が強烈じゃねえかみてえな、突き抜けてんじゃんみてえな。
 そうなっと、たとえば、ヒロインがなにかに目覚めて、スキンヘッズじゃなしに、ネオ・ジオン的なネオ・ナチスを標榜して、まああのべっぴんさんがナチスの制服着てドイツ語で演説したり、だれかを罵ったりするシーンが見たいというのはただのマゾのおれの意見なんだけど、ナチス礼賛に片足ぶちぬくくらいのなんかとかさ。
 まあしかし、このあたりはもう、おれは不感症になってしまっているのかもしらん。たとえば、おれが礼賛してやまない『ストライクウィッチーズ』をみたまえ! 第二次世界大戦という似たように扱いにくい題材を、さらに「パンツじゃないから恥ずかしくないもん!」にした上で、なにかわけのわからん魂の宿ったものになってしまってんだぜ。そしてまた、おれが勝手に脳内で繰り広げてる日々の妄想みたいなものもあって(たまに日記にこぼれだすけど)、妄想には放送コードとかねえしさ。
 そういうわけで、まあ、いろいろネジの外れた人間、道徳心、倫理心、そのあたりのハートに欠ける人間には、なかなか毒が回らねえんだ。あるいははてなブックマークの見すぎかもしれない。ちょっと損だ。
 でもまあ、こっちが勝手にハードル上げてたりとかあって、もし次回作があんならもっとぶち抜けて欲しいし、そこらへんの犬が死んで泣ける映画見るより109倍くらいはマシだし、まあなんたって第三帝国の制服は絵になるしな!(……とか書いてもたぶん逮捕されないのは素晴らしいって、エルベ特別攻撃隊の発案者のオールド・ナチにほめられちゃったりするんだろうが)

映画メモ☆彡
 今年映画館で見た映画は、
『恋の罪』『ヒミズ』『国道20号線』『サウダーヂ』『天皇ごっこ 見沢知廉たった一人の革命』『劇場版ストライクウィッチーズ』もう一回『劇場版ストライクウィッチーズ』『サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(舞台挨拶つき)『トータル・リコール』
 に続いて10本目。映画趣味でないものには、月2本ペースというのは難しいな。
 ついでに、このごろ読んだ第二次世界大戦の本と、見た戦争映画……は抜き出すの面倒なので右上の検索欄使うなり、上の「感想文」なりをクリックしてください。