去年だったか一昨年だったか、暑いころだったか寒いころだったか思い出せないが、深夜二時か三時ごろの話だ。おれは仕事を終えてジェントリフィケーションの進む寿町の外側をずったらずったら歩いてたと思う。そんな時間でもこのあたりには人通りがあって、おれもそんな中のひとりで、ずったらずったら歩いていたと思う。おれはもうすっかり慣れてしまって、地域の感じも時間帯もなんとも思わない感じになっていて、ずったらずったら歩いていたんだ。
でも、なんかちょっと変だなって思うこととか、ヤクザが事務所の前で送迎してるのとかにはわりと敏感ではありたいと思うんだけど、ちょっと先の方でそんな気配があったんだ。マンションの前に黒くてでかいRVだかなんだかが停まってて、金髪茶髪ジャージ姿の若い連中が数人いて、車の後ろにがらんがらんなんか積み込んでるんだ。で、近づいてみたら金属バットだったんだよ。金属バットを何本も車に積み込んでたんだ。派手なホイールの、黒い車に。
それでおれは、「ああ、さすが高校野球熱も高い神奈川、横浜スタジアムも近いし、早朝野球をやるんだな」って思ったんだ。みんなマイ・金属バット持参で、野球やるんだなって思ったんだ。
どっかのグラウンドか、河川敷かわからないけど、野球するんだなって思ったんだ。さわやかでいい話だ。元高校球児とかいるんだろうか。それでおれは野球をする人たちの横を何事もなくずったらずったら通り過ぎて帰宅したんだ。そんなことを、まったく関係ない怖い東京のニュースを読んで、ふと思い出したりしたんだ。まったく関係ないニュースなのにね。