25000円でイージーオーダースーツを作る話


 「お前に免許を更新する権利をやろう」というありがたいオオアリクイが警察24時から未亡人に届いた。俺はたまたま子供を6人轢き殺していないだけ - 関内関外日記(跡地)なので、はっきり言っておれが自動車のハンドルを握る可能性は少ないのだけれども、免許を返上するのももったいないような気はする。障害騎手が足らなくてレースが不成立になる時代だ。それに車の方が進歩して勝手に運転してくれるようになるかもしれない。

 まあ、おれが車を所有するだけの金を手に入れることは金輪際なさそうなので、それもまた関係ない話だが。ただ、失効してもう一回取るのに何十万? とかいうの考えたら、やっぱり三千数百円で継続で、みたいな。

 それでおれは、なんとはなしに所持している運転免許証を財布から出して眺めたりしたわけだ。当然のことながら写真が載っている。女から「なんか詐欺師みたい。ともかく胡散臭い」と評判の、目付きの悪いスーツの男が写っている。

 しかし、このスーツってなんだろう? 引越しの時に捨てたやつか? 喪服用に買ったダークスーツじゃねえよな? つーか、おれ、現状、スーツを一着も持ってない。それに気づいた。100日に1回あるかないかの外での打ち合わせみたいなものでも、普段のジャージ姿ってわけにはいかないが、適当な古着のジャケットとジーンズとかそんなんで済ませてしまっているので、用がないといえば用がないのだが、一着くらいはあってもよくね?

 よっておれは、運転免許の更新のためにスーツを買うことにした。どこで? そりゃあもちろん、イオンとかダイエーで吊られてるやつだろ。100日に1回着るか着ないかのもんに金出せるかという。つーか、おれは9800円のやつで満足だったしな。9800円だ。


 というわけで、財布の中にストライクウィッチーズのイベント物販で使えなかった福澤先生(その場の雰囲気でシーツとか抱き枕カバーとか買う可能性を考慮してた。まあ実際買いたくなっても買えなかったわけだが)を持っておれは出かけたのだった。

 それで、スーツ売り場でクソチビ用のなんかストライプでも入ったやつ(クソチビの身長が高く見えるマジック!)ねえか見てたら、わりともうお年寄りといってもいいような店員さんが声かけてきた。昨日からセールでイージーオーダーがお得云々。「見るだけならタダですから、どうですか?」と。

 んで、生地見せられて、そんで、既成品のやつはどうしても身長基準で選ぶことになるからいろんなところ合わなくなるし、パンツじゃないから恥ずかしくないもんのほうも、セットになってて合わねえことになる云々言う。なんかわからんが、ちょっとスーツについていろいろ喋りたそうな感じといっては変だけれども、おれも未知の領域について教わりたい感じになったんで(まあ、30半ばで今更かよって話は重々承知ですが)、「そんじゃその生地で一つ」と頼むことにした。一回きちんと寸法したらお前、将来的にネットで通販とかも可能だろうとか。……いや、スーツいらねえじゃん。つーか、目下のところ、使いもしない免許証の、べつに着ているものはどうでもいい証明写真のために来てんの忘れてねえか? とは思いつつ。

 そんで、採寸だの、デザインだの、ボタンだのの話を聞きながら、初めてクロスバイク買ったときのこと思い出したね。

 あのジャックモールスポーツオーソリティはなくなっちゃって(つーか、ジャックモール自体なくなって移転すんだけど)、でもその前に自転車売場も縮小されてたような気がすんだけど、なんかすげえベテランの自転車職人みたいなじいさんがいたんだよ。
 なんか、それとまったく同じ構図みたいで、袖の長さは本来こういうものです、とか、せっかくだからボタンはちょっといいやつにすべきだけれども、あまり派手なのは年配向けだし、見合った生地じゃないとよくないだの(まあ、あれこれのオプションはノーノーで通したけどボタンだけは追加した。)、採寸用に仮に着たやつのサイズが表記と2cmも違っててこれはひどくいい加減ですねだの、まあおれにはそれがどんだけの正しい話かしらんが、いろいろと聞いた。
 あと、採寸で右手の方が一センチ長くて「投擲系のスポーツでもやられてましたか」とか言われて、どう考えてもスポーツやってる人間には見えねえだろうとか思ったけど。まあそのくらい違うのは普通らしいが。あと、なで肩の人は肩幅の問題じゃきつさを解消できねえし、人体、肩の下がり具合も左右違うからフルオーダーなら左右で角度変えるんだとか。
 ただ、それなりに維持しようとしてる股とふくらはぎの発達を指摘されたのは悪くない気にもなったりな。それで、ジョギングや自転車で太ももとかに肉ついてる若い人が増えてて、身長基準の吊るし買うと合わねえ云々などという話も。
 しかしそうか、左右対称の物は美しいが、人体がそうであることはあんまりなさそうだし、服の目的を考えたら……やっぱり人体に合わせるべきなんだろうなとか考えたりな。
 ……つーか、おれ、なんか専門領域持ってそうな人の話を聞くのは嫌いじゃねえな。
 そんで、しまいには仕上がりは◯日だけど、最後に私が見ますから(出来上がってるのに見たところでなにするのかわからんが)、ええ、店員では駄目ですから△日に来てくださいと、彼の出勤日に合わせて取りに来る日を指定されるという。まあ土日だからいいけど。

 つーか、店員でなければなんなのだろう? ようわからん。あのスポーツオーソリティのドクみたいな人もそうだったけれども、何かしらその道の人を大手総合量販店が雇うルートみたいなものがあるのだろか。それとも、ダイエーならダイエーでひたすらスーツ売ってきた人を再雇用みたいな感じか? わからん。わからんが、この日の話っぷりでは、ここはお値段もリーズナブルなものしかないのでご安心を、みたいなことを何度も言ってたし、もっと高いものを取り扱って売ってたみたいな雰囲気漂わせ(たがっ)てたなーとか思うと、いろいろ想像はするけれども。まあ、いいや。
 しかし、スーツというやつも、やっすいイージーなオーダーでも非常識な組み合わせをしようと思えばできるわけだし、なんつーの? デザインというと言い過ぎにしても、自転車のハンドルバーやステム、シートポスト、サドル、タイヤ、ホイール組み合わせるような、なんつーのか、そういうのが出来るってのは、ちょっとおもしろいなと思ったりはした(そういや昔、モーニング系列かなんかで仕立屋の職業漫画あったな)。なんつーのか、カスタム趣味みたいなもんってあるじゃん。まあ、さすがに実用的でも非実用的でもないスーツ趣味というのはありえないし、そもそも金が無い、というあたりのお話なんだけれどもね。つーか、スーツ着なきゃいけないサラリーマンって大変そうだなって思いました。おしまい。