リーくんとおれのはなし


 勝手に年度末らしい感じになって、夜遅くまで会社にいたりする。家帰ってお好み焼きを焼くのも面倒な気になるというか、家に帰るのも面倒になる。でも腹がペコちゃんなおれは、コンビニで適当な食べ物を買いに出たりはする。
 わりと遅い時間だった。いつものコンビニだ。深夜はオーナーらしきおっさんが死んだ目でレジに立っているのだが、その夜は違った。若い中国人の店員だった。しかも男だ。男といっても、男の子というくらいの感じだ。このあたりのコンビニ、日本人より中国人店員の方が多いが、男の店員というのはあまり見かけない。いや、おれが深夜にあまり立ち寄らないだけか。
 まあいい。しかしその子はどう見ても新入りという感じだった。おれの前に会計をしていた女性が、868円だとか、わりと細かい金額を、わりと細かい硬貨でちょうど払っていたのだが、その日本円を数えるのに四苦八苦していたからだ。
 おれは、コールスローサラダ一個と、カレーまん、ピザまんを食うことにして、レジに向かった。そこで目にしたのは、トレイに置きっぱなしにされた硬貨たちだった。おれは三十余年生きてきて、こういう情況に遭遇したことはない。それでもかれは構わずに「イラッシャイマセー」と元気に言うではないか。
 おれはサラダをカウンターに置き、「あと、カレーまんとピザまん」とゆっくり、明瞭に発音する。彼は、「少々オマチクダサイ!」というと、かけ足で保温器の前に行き、扉を開けてじっくりと注文品があるか確認する。おい、おれ、トレイの小銭くすねるチャンスじゃねえか。くすねないけどさ。で、またかけ足で戻ってきて、レジに二品の金額を打ち込む。「○○○円ニナリマス!」。
 さて、どうしよう。まだ彼、気づいてない。本来金を入れるべきトレイには、さっきの女の人が支払った868円だかのいろいろの硬貨が載ったままだ。かといって、「SUICAで」とか言っておれがトレイから逃げようとしたら、今度はその操作に彼が戸惑い、仮眠でもしている死んだ目をした店長を呼ぶことになるかもしれない。それも面倒だ。かといって、コンビニの店員に「前の人の支払金をレジに入れなくていいのですか!」と言うのも……なんか変だ。変じゃないかもしれないが、なんかおれには変に思えたんだ。疲れていたのかもしれない。
 で、結局、500円硬貨1枚取り出して、トレイに入れようとしたら、「あら、お金がそのまま」みたいな無言の小芝居を演じることになった。彼はようやくそれで気づいてくれて、ジャラジャラと小銭をかき集めてレジの「いったん置く場所」みたいなところに置いた。おれが500円硬貨1枚トレイに置くと、お釣りとレシートを渡し、「少々オマチクダサイ!」とまたかけ足で保温器に向かい、かけ足で帰ってきた。「オマタセシマシター!」。
 しかし、彼もやがては「オラーエ、オラッ、オラッ、ダァシエリエス!」でレジを取り仕切る一流のコンビニ店員になるのだろう。あるいは、ならないかもしれない。あと、写真と本文は関係ない。だいたいそのようなものだ。

関連______________________