十月、一つ目、秋の風。

 十月、一つ目、秋の風。泣きはらした路面を、見慣れぬ柄のタクシーが走り抜けた。おれはあいかわらず非自発的で非英雄的な死に方のことばかり考えていた。空から自殺志願者が落ちてこないか。駅のホームに自殺志願者がものすごい勢いで飛んでこないか。自殺志願者が、ものすごい勢いで。
 自殺したものは報ずるべからず。もし報ずるにあたっては最小限に留めるべし。それは隠蔽にあらずや、思い浮かぶおれ、漠然とした自死志願の列の最後尾にならんでいる。いや、正しい列に並んでいるのかどうかわからない。苦しく、見苦しい、生への執着の列にならんでいるのかもしれない。非自発的な生、非自発的な生活。
 十月、一つ目、色のない太陽光線。踏み潰された銀杏の悪臭。柿の実は色づきはじめるが、鳥はまだ来ない。