それは10月の風だった

 ジェット旅客機のドアは簡単にロックが解除された。おれは両脇をマフィアに抱えられて、放り出されようとしていた。おれの頼みの綱は背中のバックパック、パラシュート。5,000mで開くという。しかし、そのとき旅客機が5,000m以上か以下かおれにはわからなかった。ドアの外には山が見えた。集落が見えた。案外うまくいくんじゃないかと思おうとした。無駄だった。おれはあがいた。目が覚めると7時過ぎだった。おれは一度用を足しにベッドから出た。用を足しベッドに戻った。おれはまたジェット旅客機の中に戻ってきた。背負っているのはおれのドイター・トランスアルパイン25だった。これにパラシュートの機能があったのかどうか。外には山が見えた。集落が見えた。翼にぶつかるか、エンジンに吸い込まれて死ぬに違いないと思った。ただしおれはマフィアに両脇を抱えられていた。飛び降りるしかないのだった。目が覚めると8時3分前だった。目を開けてアラームの鳴るのを待つ。3分経つとiPhone5sが鳴る。上半身だけ起こしてさらに1分、iPhone3GSがちゃぶ台の上で鳴り出す。おれは起きた。起きて、着替えを用意しシャワーを浴びた。水温を一度あげようと思う。雨の週末、部屋の中にしまってあった小径車を担ぎ出す。雨のあと。たわわに実りすぎた隣家の柿。少し風が吹く。おれは自転車をこぐ。雨の週末、おれは部屋の中にいて航空機の本とマフィアの本をずっと読んでいた。雨の日にはすることがない。ところで、パラシュートが開くのは5,000mでいいのか?