「そして」も「だから」も「しかし」もない〜エルロイ『アメリカン・デス・トリップ』〜

アメリカン・デス・トリップ 上 (文春文庫 エ 4-13)

アメリカン・デス・トリップ 上 (文春文庫 エ 4-13)

アメリカン・デス・トリップ 下 (文春文庫 エ 4-14)

アメリカン・デス・トリップ 下 (文春文庫 エ 4-14)

 原題『The Cold Six Thousand』。意味は「裏金六千ドル」。『アメリカン・デス・トリップ』はエルロイ本人による日本語版、フランス語版タイトル。デス・トリップ。『アメリカン・タブロイド』に続く旅の始まり。JFKの死、キング牧師ロバート・ケネディアメリカの歴史。その裏にうごめく悪者ども。われらがビッグ・ピート、われらがウォード・リテル、そして新登場のウェイン・ジュニア。クラン、FBI、CIA。ハワード・ヒューズ、ジミー・ホッファ、その他大物実在マフィア。サル・ミネオ、ディック・コンティーノ、実在の有名人。コンティーノが有名か知らぬが。意図と意図が絡まり合う。裏切り、あっけない死。男たちはもがく、小便を漏らす、大便を漏らす、血反吐を吐く、胆汁を吐く。一人の女を愛す。女に救いを求める。
 極端に切り詰められた文体。間に書簡、通話記録、盗聴記録、新聞の大見出し小見出しの入るスタイル。地の文に接続詞はほとんどない。日本語にして読点は少なく句点だらけ。「そして」、も「だから」も、「しかし」もない。ただそこにそうあるように投げ出された「もの」の、「こと」の羅列。スタッカート。だが、炙りだされるものは単純ではない。愛憎がある。老いがある。悲しみがある。おれはエルロイを愛している。
 アメリカ人がこれをどのように読むのか知らぬ。世代によっても違う。おれはWikipediaをたまに見て、なにが現実とされていることか知る。実在の人物とそうでない人物を知る。アメリカの歴史の一部をわかったような気になる。小学生の教科書にすればいい。歴史の。文章の。内容の真実味? ダラスは遠い。実際に起こらなかったことも歴史のうちだ。暗黒の司馬遼太郎。おれはすぐに『アンダーワールドUSA』にとりかかる。

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