21世紀の暴れん坊将軍


 ここ数日、風邪をひいて会社に行きたくない感じなので、LINEでゲロを吐いたスタンプを送りつけて悠々重役出勤などしている。そんな今朝、熱を計りながらふとテレビをつけると『暴れん坊将軍』をやっていた。「フハッ!」と思った。同時に、この画面を映しているであろう全国のテレビのことを思い、そのテレビの前にいる人間のことを思った。視聴率など知らぬが、やっている以上は見ている人間がいる。わざわざ再放送に選んでいるのだから、需要があるとテレビ局は考えている。スポンサーもいる。LINEでゲロを吐いたスタンプを送りつけてる場合ではなかった。おれはいてもたってもいられず、即座に結跏趺坐を組み、大宇宙情報集中点に収録された『暴れん坊将軍』要素に神経アクセスを試みた。そこで得られた情報を人間言語化するのは難しいが、『暴れん坊将軍』のオリジナルというものは既に大人類総合意識の中から消失しており、われわれが『暴れん坊将軍』の再放送だと思っているものは、「『暴れん坊将軍』の再放送だと思っているもの」であるということだ。これが要点にて終着点だとビッグ・マインドはアルトラ・ホラーショー解説。お供の大ドルーグと小ドルーグは目を閉じて瞑想プレイ。そして目を見開いたおれは松平健。視覚情報は両端をカット。白馬に颯爽と白馬にまたがるスムーズ・ムーブ。空にドルビーのロゴが跳ねると、メーン・テーマが三千世界に鳴り響く。全国三千万台のテレビ画面、三千万人の『暴れん坊将軍』。いざ、鞭を振るえ、ナチスのお帽子、ガーターソックス。夜の暴れん坊将軍の群れは東から、西からは朝の暴れん坊将軍の群れが殺到する。渦を巻いてセイム・オールド・ショーをおれは雲の上から見ている。北島三郎の馬を船橋競馬場で見ている。「『暴れん坊将軍』の再放送だと思っているものの再放送」は終わることなく上映され続け、世界の終点まで伸びているのが見える。その果てに世界の始点があり、やはり「『暴れん坊将軍』の再放送だと思っているものの再放送だと思っているもの」のオープニングが見えかけた瞬間、体温計が粗末な電子音。おれは薬を飲んでテレビのスイッチをキル。空を見上げれば五雲たなびき天上にことはなし。白馬の代わりに小径自転車を漕ぎだす。WAKOSのメンテルーブに保護されたチェーンは微かにスムースな音を立てる。おれはここ数日、風邪をひいてよりいっそう頭の調子がおかしい。少し熱がある。熱のない人間はいない。死体の体温は0度だ。ゆえにわれわれは死なない。北海道にでもいかない限りは。